第9話・精神的不安定

 目を覚ますと朝日が出て綺麗に輝いていた。


「ああ。なんて綺麗なんだろう」

 俺の口から自然と言葉が漏れていた。


 上を見上げたら、青くよどみのない空がどこまでも遠く透き通っていた、空は何処までも果てしなく続いている、その事実が胸にしみた。

 何となくだが空から大きな勇気と力を貰えた気がした。


 あくまで気がする、深い意味はない、それでも不思議と心は凄く穏やかだった。


「さて。走るか」


俺は街に向かって走り出した。


足取りは昨日よりも軽かった。


スピードはドンドン出る。

気持ちが良いくらい出る。


走って走って走って走って走って。


走った。


「ハハハハハ。ハハハハハ」


気が付いたら笑っていた。

そして泣いていた。


涙が頬を伝う。


昨日のあの光景がいきなりフラッシュバックしてしまった。

あの地獄の光景が。


・・・・・・・・


気が付いたら足は止まっていた。


「クソがクソがクソが、何俺が無邪気に楽しく走ってるんだよ。意味が分かんねよ。何で俺は楽しそうに出来るんだよ。俺は誰も守れなかったのに、俺のせいで皆が死んでしまったかもしれないのに」


精神が不安定になる。

優しい村の皆のことだ俺を攻めたりはしないとは思う。

少なくともお父さんとジークとイトは絶対に俺を責めずにむしろ楽しく生きろって言ってくれると思う。


でもそれでもどうしても思ってしまう。


もしも俺がいなかったら、皆生きていたんじゃないかって?

もしも俺が強かったら、そしていち早くその状況に気が付けたのならば皆を助けられたんじゃないかって?

もしも俺が本当の物語に出てくるような最強の勇者だったらって。


どうしても思ってしまう。

意味のない筈なのに答えなんてない筈なのに、考えて考えて苦しんでしまう。


とどのつまり俺はやっぱり消化できずにいるということだ。


皆が死んでしまったこと、殺されてしまったこと、そしてあの惨状の中、勇者だからという理由だけで生き延びてしまった俺自身に、もしかしなくても俺が勇者だったせいで皆が死んだのではないかという事実に。


それがまだ胸の中で黒くひたすらにどす黒く渦巻いているのだと思う。


ギュ


気が付いたら俺は自分で自分を抱きしめていた。


人の温もりが欲しくなった。

誰かに頼って自分を慰めて欲しかった。

救って欲しかった。

自分を肯定して欲しかった。

誰かに俺は悪くないと言って欲しかった。


でも、誰もいなかった。

ここは森の中、いるのはそれこそ魔物と動物くらいだ。


俺は一人だった。


どうしようもないくらいに一人だった。


・・・・・・・・・・・・・


「オロ、オロロロロロロロ」


吐いた。


盛大に吐いた。


ストレスがかかったせいか、俺は吐いてしまう。


吐いて。吐いて。吐いて。盛大に吐いて。


ようやく落ち着きを取り戻す。


「ハア、ハア、ハア、ハア」


息は荒い。


でも、吐いたおかげか気持ちは少し楽になる。


上を見る。


空は晴れていた。


「さて、走るか」


相変わらず精神的には不安定だが、俺は町へ向かって走り出した。

今、俺に出来ることはそれくらいしかないのだから。



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