第5話・弔いと誓い

 俺は今土を掘っている。


 理由は埋めるためだ?


 誰を?


 イトをジークをお父さんを村の皆をだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今土を掘っている。


 理由は弔いのためだ。皆を弔うためだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今土を掘っている。


 理由は決別の為だ。そして皆を魔物と一緒に野ざらしには出来ないからだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今涙が枯れた。


 理由は泣きすぎたからだ。辛くて悔しくて悲してくれひたすらに泣きすぎたんだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今憎悪している。


 理由はあの化け物にジークをお父さんを殺されたからだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今苦しんでいる。


 理由は俺が弱いからだ。

 俺がもっと強ければジークも父さんも、ひいてはイトも村の皆も生きてたかもしれないのだから。


 ・・・・・・・・・


 俺は今死にたいと思っている。


 理由は俺は愛する人を親友を家族を村の皆も、そして生まれてからずっと過ごした村も全てを無くしたからだ。


 生きる意味が分からなくなってしまったんだ。


 ・・・・・・・・・


 俺は今分からずにいる。


 だって村の皆が、イトがジークがお父さんが死んだ理由は俺かもしれないのだから。


 少なくともジークとお父さんが死んだ理由は俺だ。


 ・・・・・・・・・


 だって俺が勇者の血を引いているから。


 そのせいて俺のせいで、あの化け物は現れたんだ。


 そしてそして、あの化け物のせいで。


 俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は。


 ・・・・・・・・・


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 発狂する絶叫する。


 叫んで叫んでひらすらに叫ぶ。


 叫ばないと気が狂ってしまいそうだったから。


 そうしないと自我が保てないから。


 いや違う。俺はもうとっくに狂ってるかもしれない。

 自分の弱さと自分の不甲斐なさに狂ってるんだ。


「もし、俺が強かったら。もし俺が英雄ならば。あの化け物を倒せるぐらいの英雄だったら・・・・・・・・・俺は・・・俺は・・・」


 ぽつぽつぽつ


 雨が降って来た。


 まるで今の俺の心情を表しているかのような雨だった。



 ざーーーーーーーーーー



 雨は次第に勢いを増し、魔物の手によって燃えていた村の火は消える。


 ぐううううう


 お腹が鳴った。


 こんな状況でも俺の体は生きようとしていた。


「ああ。お腹減ったな」


 ・・・・・・・・・


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。なあ。俺はどうすればいいんだ。俺に何を求めるんだ。俺は・・・・・・・俺は・・・」


 ぐううううう


 またお腹が鳴る。


 どうやら俺の意思とは反対に俺の体は生きろと強く訴えてくれているようだ。


 俺は一旦土を掘るのを中断して、森の中に入り、今日お父さんと一緒に捕まえて解体したイノシシの肉を持ってきた。


 まだ雨は降っており火は起こせそうになかったから、生で肉を食った。


 そのままかぶりつきむしゃぶり食った。


 想像以上に美味しかった。


 本来ならば獣臭いイノシシ肉だが、保存する為に包んだ葉っぱが獣臭さを消し、歯ごたえのある美味しい肉となっていた。


「美味しいよ。ああ、凄く美味しいよ」


 枯れたと思っていた涙がまた溢れ出して来た。

 どうしようもないくらい溢れ出してきた。

 お腹が膨れると不思議と生きる気力が湧いて来た。


「俺は生きよう。生きて、英雄になって天国にいるイトにジークにお母さんにお父さんに村の皆に誇れる俺でいよう」


 そう声に出すと更に生きる気力が湧いてくる。


 そして俺の生きようという思いに反応するように手の甲が光り輝き勇者の紋章が現れてすぐに消えた。


 まるで俺が生きようと決意したのを喜ぶようだった。


「よし。土を掘ろう」


 俺はもう一度立ち上がり、土を掘り始めた。


 ただ今度は絶望と憎悪に飲まれて自問自答を繰り返しながらただ漠然と土を掘るのではなく、生きる希望と英雄になるという目標を持ち、皆を弔うという強い意志の元ひたすらに土を掘るのだった。


―――――――――――――――――


 最後はハッピーエンドにしますから安心して読んでください。

 それと暫くは主人公は精神が少々不安定になった形でお送りします。それはまあ、目の前で親友が殺されて村は焼かれて初恋の人も死んで、父親も殺されて、そんでもってその原因が自分かも知れないと。

 それはまあ、メンタルブレイクまったなしですね。

 といっても、もう少し話が進むとそれを乗り越える話をしますので、そうしたら主人公は精神的に安定しますのでご安心ください。


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