第4話・愉悦王

「ハハハハハ。勝ったぞ。俺達は勝ったんだ」


「ああ。そうだな。勝ったぞ。俺達は勝ったんだ」


 大量の汗をかき、酷使した体は悲鳴を上げて二人共その場に倒れ込む。

 満身創痍であった。

 それもそのはずである、ジークとユウキは天才であるが、今日初めて魔物と本当の命の奪い合いをしたのだ。

 それもただの魔物ではない暴走して襲い掛かってくる100匹以上の魔物である。

 普段のジークとユウキであればいともたやすく殺されていたであろう。

 ただ、命懸けの戦いということで脳のリミッターを外して極限まで脳と筋肉を酷使して普段以上の実力を出して戦った。それによって生き残ることが出来た。勝つことが出来た。

 その代償に酷使し過ぎた筋肉が悲鳴をあげて激痛となり、酷使し過ぎた脳が激しい頭痛という形で襲い掛かってくる。

 それでも二人には生き残ったという確かな満足感と充足感があった。

 

「なあ。ユウキお前は最高の友人だよ」


「それはこっちのセリフだぜ。ジーク」


 二人はゆっくりと腕をあげて互いに拳を合わせる。

 昔っからやっている友情の証だった。


「「ハハハハハハハハ」」

 不思議と笑いがこみあげる。

 されどすぐに沈黙が支配する。


 ・・・・・・・・・・・


「守れなかったな、ジーク」


「そうだな。俺達は弱いな」


 二人は涙を流す。

 無理もない。


 二人が愛していたイトが死んだのだから。

 村の皆も死んだのだから。

 そして、その村の皆の中には当然ジークのお母さんだって含まれていた。


「なあ。ユウキ、俺は強くなりたいよ」


「俺もだ。ジーク、強くなって強くなって今度こそ皆を守れるようになりたいよ」


「本当にな。それにもう二度とこんな思いはしたくねえな」


「ああ。そうだな。だからこそ強くなって強くなってどんな理不尽も跳ね返せるくらいに強い英雄になるんだ」


「どんな理不尽も跳ね返せる英雄か・・・、いいなそれは。凄くいいな」


「ああ。そうだろ。凄くいいだろ」


「なあ。ジーク。お前が生きてて本当に良かったよ」


「俺もだ。ユウキが生きててよかった。じゃなかったら、俺は確実に死んでいた」


「俺もジークがいなきゃ確実に死んでいたさ」


「互いに支え合って生き抜くか。俺は本当に良い友を得た」


「それはこっちのセリフだ」


「あ。そういえばお前の親父さんはどこ行った?」


「あ。確かに生存者を探すって言ってたけど?」


 その時だった。

 足音が聞こえた。


 二人はまさか魔物がまだ残っていたかと思い満身創痍の体を無理やり起こして立ち上がり剣を構えた。


 しかしそれは良い意味で裏切られた。


「ジーク、ユウキ生きてたか」


「お父さんも無事だったんだね」


「あのう。親父さん。生存者は他に・・・」

 ジークはもしかしたら母親が生きているのではないかという淡い期待を込める。

 ユウキの父親は目を閉じてそっと首を横に振った。


「・・・そうですか・・・」


「ああ。すまない。俺が探した範囲では全員・・・」


「3人で弔いをしようよ」

 ユウキは重くなった場の空気を変えようとそう提案する。


「ああ。そうだな。だがその前にユウキ、お前に伝えなければならないことがある」


「俺に?」


「ああ。そうだ。実はな、お前は勇者の血を引く者なんだ」


「え?俺が勇者の血を引く者?」


「ちょっと。親父さんどういうことだよ。それって」


「まあ、待て落ち着け二人共。実はなユウキ、お前のお母さんは勇者の血を引く者だったんだ。といってもその血は薄く、お母さん自体は平民で別になにか特別な力があったわけではない」


「じゃあ。俺にも力はないんじゃ?」


「違う。それがお前は覚醒遺伝なんだよ」


「覚醒遺伝?」


「ああ。そうだ。お前が生まれた時、髪の色が真っ黒になって手の甲に勇者の紋章が浮かんだんだ」


「勇者の紋章って、あの絵本に出てくる?紋章?」


「ああ。幸いすぐにその紋章は消えたし、髪の色も今の俺と同じ金髪になった。だけどお前の本当の髪の色は黒で手の甲には勇者の紋章を宿す。正真正銘の覚醒者であり勇者の血を引く、勇者になれる存在だ」


 ・・・・・・・・


「ごめん。お父さん。少し話が見えてこないのだけど」


「ああ、無理もない。でもまだ話に続きはある。それはその力についてだ」


 グシャ


 いきなり父親の心臓から腕が生えた。


 禍々しい紫色の腕が生えたのだ。


 その腕の先にある手にはドクンドクンと鼓動する父親の心臓があった。


「「え?」」

 余りも理解が出来ない事態に素でそう呟くジークとユウキ。


 グシャリ


 禍々しい手は父親の心臓を握りつぶした。


「ユウキ、に、げ、ろ」


 バタン


 心臓を潰されてユウキの父親は死んだ。


 あまりにもあっけなくあまりにも簡単に殺された。


「マーベラス。実に実にマーベラス」


 甲高い耳に残る声を出する人型の化け物。

 身長は2メートルほどで全身紫色で異常なまでに禍々しい人の形をしてシルクハットを被り、服は紳士服でお腹に大きな目があるナニカがそこにはいた。


「お前は一体何者だ」

 満身創痍の中、声を振り絞るユウキ。


「私ですか?私は魔王様の四天王が一人・愉悦王【アーゲインスト】でございます。実に実にマーベラスですね」


 その瞬間ユウキとジークは悟った。


 絶対に勝てないと。


 こいつにはどうあがいても何をどう頑張っても絶対に勝てない。敵わない。殺されると。


 アリとドラゴン。


 そのレベルの力の差があった。


 そんじゃそこからの英雄ならばこの化け物の前では塵芥に等しい。

 この化け物に勝てる存在がいるとすれば、それは英雄の中の英雄もしくは物語に出てくる勇者ぐらいしかいない。


 そう思わせる程の力を持った存在であった。


「フフフ。動けないでしょうね。私の力を悟ったのですから。いやはや実にマーベラス。ですがそれは良い判断ですよ。もしも私に歯向かったら【死】んでましたね」


 その死という言葉だけで二人は強烈な死を見た。

 実際に首が飛び。臓物が飛び出て死んでいる自分の姿が見えた。一切なんの抵抗も出来ずにあっけなく殺される自分が見えたのだ。


 そこにあるのは恐怖を超えての絶望。逃げることすら出来ない最悪にして最凶の絶望だった。


「何が目的だ」

 ジークはそう短く聞いた。


「フフフ。目的ですか。それは伝言ですよ」


「伝言?」


「はい。魔王様からの伝言です。いやはや実にマーベラスですね。では勇者・ユウキに伝言を伝えましょう」


 その瞬間化け物の雰囲気が変わった。

 全身紫で飄々としてヘラヘラした感じがいきなり王に絶対の忠誠を尽くす騎士のようになったのだ。


「勇者よ。お前はこれから様々な出会いと別れを繰り返して強くなるだろう。その道はひたすらに険しく心はズタボロになるだろう。だが今日のことを忘れず我の下に来るがよい。我はお前に期待しているぞ」


 言い終わると同時に元のふざけた雰囲気に戻る化け物。


「何故、魔王が俺なんかに・・・」


「フフフ。それはマーベラスですね。自分で確かめるのですよ。では私はこれでと言いたい所ですが、もう少し絶望して貰いましょう。ああ、実にマーベラス」


 バシュン


 その瞬間、ジークの首が消し飛んだ。


 文字通り消し飛んだのだ。


 余りの一瞬の出来事で反応は出来なかった。


 ただ気が付いたらジークの首から上が消えてなくなっていた。


 それだけだ。


 ・・・・・・・・・・・


「ああああああ。ジーク、ジーク、ジーク、ジーク、ジーク、ジーク~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。絶対にお前を許さない」


 その瞬間光が辺り一面を覆い。

 ユウキの髪が黒く染まり手の甲が光り輝いた。


「勇者覚醒ですか。実にマーベラスですね。でも不完全です」


「うおおおおおおおおおおおお」

 雄たけびあげていつの間にか手に持っていた光の剣を化け物にむかって振るユウキ。


 されど空中で体の動きは止まってしまう。


「実に実に実にマーベラスですね。いいですね。その力ならば下級の魔人ならば倒せそうですね。いやはや実にマーベーラース。ですが弱いです」


 ドン


 見えない何かが体に纏わりつき、地面に叩き落される。


「俺は負けない」

 手の甲の勇者の紋章は更に輝きを増し、ユウキに力を与える。


 その力は単純明快にしてある意味で最強の力ともいえる【身体強化】の力であった。


 ユウキは人の身を超える身体強化をフルに発揮して、謎の拘束を破ると化け物に向かって再度光の剣を振う。


 カキ~~~ン


 されど剣は見えない何かに阻まれる。


「うん。実にマーベラスですね。ですがやはり弱い。弱い。弱い。弱すぎますね~~~。マーベラスですよ。仮にも勇者もっともっと強くなってくださいね。では今度こそ。さようなら」


 そして化け物は煙となり何処かに消えた。


 残ったのは100以上の魔物の屍と村の皆の屍に燃え盛る村。

 そして愛するイトに親友であったジーク、そしてお父さんの屍だった。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 それを見てユウキは発狂した。

 叫んで叫んでひたすらに叫んで泣いて叫んで泣いて。

 泣きじゃくった。


 されど誰も答えてはくれなかった。


―――――――――――――


 大丈夫最後はハッピーエンドになります。多分・・・多分。知らんけど。

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