第3話・絶望に負けない二人の英雄譚

 業火の炎が辺り一面を立ち込め、村の人々の屍がそこら中に横たわり、魔物共が気持ちの悪い声をあげながら我が物顔で村を歩いていた。

 魔物の数はざっと100以上。

 基本的にはゴブリンやコボルトといった低級の魔物だが。中にはオークなんかの魔物もいる。


 そしてそんな魔物共は気味の悪い笑みを浮かべながら村の人の死体を喰らっていた。


「ああああああああああああああああああああ。イト、ジーク」

 地獄のような光景を見た。


 否


 地獄の光景であった。


 生まれてからずっと暮らして来た村が破壊されている。

 小さな村であるため、全員知り合いであり、全員と言葉を交わし名前を知っている。そんな村の人が殺されて喰われているのだ。


 それを地獄と言わずしてなんて言うのであろうか。


 ただ、そんな中でもユウキはまず最初に自分の愛する女性であるイトと最も仲の良い親友であるジークのことを心配した。


 そしてユウキは見てしまった。剣を構えて魔物と戦っているジークの姿とジークの後ろに横たわるイトの姿を。


 ダッダッダッダッダ


 慌ててイトの元に駆けるユウキ。


 イトの胸のあたりは剣でバッサリと斬られて、息はしてなかった。体も冷たくなっていた。

 イトは誰がどう見ても死んでいた。

 どう頑張っても明らかに確実に100%イトは死んでいた。変えようもないどうしようもない事実がユウキに襲い掛かる。


 そしてそんなイトの顔は恐怖と苦痛の顔で引き攣ったまま死んでいた。


 その瞬間、ユウキの心の何かが壊れた音がした。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。イトイトイトイトイトイト。イト・・・・・・・俺は・・・俺は・・・」


 真っ黒いどす黒い感情がユウキの心に渦巻く。そしてそれはひたすら重くのしかかり、吐きそうになり。そして吐いた。


 盛大に吐いた。


「オロオロオロオロ」


 朝飯と今日イトから貰って水に胃液が混ざったゲロが血で濡れた地面に散布される。


「おい、ユウキ、気持ちは分かるが立てよ。立てよ。立って戦え。俺達は生き残るぞ。イトの分まで生きなきゃならないんだぞ」


 ジークの声が聞こえた。

 その声はどす黒い感情に支配されて吐いて、そのまま魔物に殺されそうだったユウキの未来を変えた。


「ジーク。すまねえ。俺はそうだな。生きなければならないな。戦わないと駄目だな。こんな姿、イトにも天国にいるお母さんにも見せられないもんな。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 一射


 雄たけびを上げて自分に襲い掛かって来たゴブリンの頭を弓で射る。


「そうだ。それでこそ俺のライバルだ。それでこそ俺の親友だ。さあ戦うぞ。俺達は生き残ってやるぞ」

 その時のジークは涙を流していた。涙を流しながら戦っていた。

 

「ジーク。ああ。そうだなジーク。ああ、本当にそうだな」

 ジークも辛い筈であった。おそらく近くにいたはずなのに愛する女性であるイトを殺され、自分の弱さを嘆いたであろう。

 それでも心を保ち、こうして魔物に立ち向かっている。


 ジークは強い男だ。

 そんなジークのライバルなんだ俺も強くならなくちゃいけない。そうユウキは決意し覚悟を決めた。


「おい。ユウキ、これを使え」

 お父さんがユウキに剣を投げる。


 それはユウキが15歳の誕生日に父から狩って貰った鉄の剣であった。


「お前に必要だと思ってさっき家に戻って取って来た。俺は今から他に生存者がいないか探してくる。だからお前らもタイミングを見計らって逃げろよ。生きてまた会おう」

 お父さんは生存者を探しに走っていった。


「ありがとう。お父さん」


「ユウキ、背中は預けるぞ」


「こっちのセリフだ。ジーク」


「絶対に生きて帰るぞ」


「当たり前だろ。絶対に生きて帰ってやるよ」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」」


 斬


 二人の若き剣士の剣が向かってきたコボルトを切り裂いた。


 そこからは命がけの戦いであった。


 自分達を倒せるジークとユウキを最大の脅威と定めた魔物達が四方八方から襲い掛かて来たのだ。


 もしも一人だったらば一瞬で殺されていたであろう。

 しかし二人であった。


 互いに最も信頼し最も互いの実力を知り理解しているジークとユウキの二人だったのだ。


 二人は一切後ろのことは気にせず前だけを見て魔物を斬って斬って斬り倒した。


「ジークが生きてて良かったよ」

 戦ってる最中ユウキはそう呟いた。


「どうしたユウキ」


「いや。何だ。もしもジークがいなかったら俺は一瞬で殺されていたなって思ったんだよ」


「それはこっちのセリフだよ。でも。まだ気を抜くな。俺達はこの戦いに勝って生きなければならないからな」


「ああ。そうだな。イトの分まで生きなければな」


「そうだ。そして二人で英雄になって天国にいるイトに自慢してやろうぜ」


「二人で英雄か・・・それは凄くいいな。二人で英雄だ。それこそ俺とジーク二人で英雄譚でも作ってやろうぜ」


「そうなると。この戦いはその英雄譚の第一歩だな」


「そうだな。それこそ本になって子供たちが憧れるような英雄譚を創ろうぜ」


「それはいいな。じゃあ意地でも死ぬわけにはいかないな」

 喋りながらも二人は魔物を次々と切り裂いていく。


 そして皮肉なことにこの極限状態の中、二人の実力は恐ろしい速度で上昇していった。

 二人の中に渦巻く生きなければという強い思いとイトに村の人々を殺された怒りと憎悪によって脳内麻薬が過剰に分泌されて疲れも痛みを感じず、頭はひたすらに冴えわたり感覚は研ぎ澄ませれいたのだ。

 そうして二人の剣術は次のステージへと至った。


 それは極限の反射


 自分の命の危機に晒された瞬間、脳のリミッターを解除することで出来る極一部の超天才のみがたどり着ける至極の領域。

 自分の前方だけではあるが。敵の攻撃を感覚で反応して攻撃が当たる前に斬り倒すという正に最強の技。

 もちろん弱点もある本来ならば前方だけであるために奇襲に酷く弱い。


 しかし今、ユウキの後ろにはジークがジークの後ろにはユウキがいた。


 それ即ち無敵ということであった。


「なあ。ユウキ俺不思議と魔物共の攻撃が見えるのだが」


「奇遇だなジーク。俺もだ」


「そうか。ハハハハハハハ。奇遇だな。さていくぞユウキ~~~~~~」


「そうだなジーク。この調子でクソったれた魔物共を全滅させてやる」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」」


 二人の少年は無双をする。


 ゴブリンがこん棒を持って襲い掛かろうがジークはそれをいともたやすくいなして斬り倒す。

 コボルトが弓矢で攻撃を仕掛けるがユウキはそれを剣で斬り落とし、腰にある投げナイフを投擲してコボルトの脳天を貫く。

 オークがその巨体で攻撃を仕掛けるが、二人の息の合ったコンビネーションの前では無力。攻撃は簡単に避けられ、ユウキが足を切り裂いて体制を崩したところをジークが首をはねる。


 そして気が付いたら100匹以上いた魔物の群れは全滅していた。


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