第7話 常連客
「久しぶり。相変わらず元気だねぇ、あんたと女将さん」
適当な席につくと、顔見知りの常連客が声をかけてきた。
亜里彗にメニューを渡しながら、はぁ、まぁ、と頭を下げる。
俺に声をかけるタイミングを完全に見失った父が、厨房でしょげかえっているのが見えた。
その背中を母が思い切り叩いている。
「しっかりしろ」という意味だろう。
痛がって涙目になっている父に憐れみの視線を送る。
それを横目に、常連客は言葉を紡ぐ。
「でもねぇ、まぁ分かっているだろうけど、あんたのことすごく心配してたよ、二人とも。女将は意外とツンデレだから、伝わりにくいかもしれないけれど……」
「ちょっとー、何言ってるんですかー、
あぁそうだ、神崎さん。名前が思い出せなくてもやもやしていた。
よくお菓子をくれた。
中学生のころ、「もうそんな歳じゃない」と思いながらも貰うのが嬉しかったのを覚えている。
雑誌記者だったから、いろんなところを飛び回っていて、その分いろいろな経験をしていた。いろんな話を面白おかしくしてくれて、冒険みたいでわくわくして、神崎さんと接している時はものくさ太郎がものぐさじゃなかった唯一の時だった。
毎回いろいろなところから買ってきてくれるお土産も、楽しみにしていた。
懐かしい、本当に。
「い、いつの間に……」
ぎぎぎ、と首を回して後ろを向き、神崎さんは母の姿に笑みを引きつらせる。
「全くもう、余計なこと言うんだから」
ふんっ、と顔を背けて、母は神崎さんに軽いチョップをする。
「いてぇ。」
神崎さんが頭を押さえて、定食屋にいる皆が笑った。
この暖かい、大家族みたいな雰囲気が、大好きだった。
ものくさ太郎だって、昔はちょっと面倒くさがりだっただけで、今ほど面倒くさがりではなかったのだ。
懐かしい、全てが。
皆につられて笑う。
亜里彗がじっと、自分の顔を見つめていることも知らずに。
ものくさ太郎の育児日記 ねむねむ @nemu2
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