第6話 再会

なつかしいな……。

暖簾を前にして、ものくさ太郎は感慨にふけった。

立ち止まったものくさ太郎に、亜里彗ありすは訝しげな顔をする。

ものくさ太郎と目の前の店を見比べて、


「ここか?」


と聞いた。

ものくさ太郎が頷くと、わくわくを抑えきれずににやけだす。


「入らぬのか?」


待ちきれないといった様子で亜里彗は尋ねる。

ものくさ太郎は久しぶりに会う両親との再会に、いささか緊張していた。

何を逡巡しているのか知るよしもない亜里彗は、返事をしないものくさ太郎に焦れ、


「入るぞ」


と言ってさっさと店に入ってしまった。

亜里彗はまだ5歳で背が低いため、暖簾をくぐる必要はなかった。

さすがに5歳児(といっても鬼だが)を店に一人にするわけにはいかないので、ものくさ太郎も腹をくくって暖簾をくぐる。


見慣れた光景。何も変わっていない。

テーブルの配置も、入り口から見える厨房も、何一つ。

相変わらずの繁盛具合だな。

がやがやと賑わっていて、俺はこの雰囲気が……苦手だったが、嫌いじゃなかった。


「いらっしゃいま……あんた……!もしかして……」


夫婦二人で切り盛りしているところも変わらない。

いつまでも、いくら儲かっても、アルバイトは雇わない。

良い匂いだ。味噌汁の匂い、温かい飯の匂い……。それらが宙に漂っている。

それが、俺の両親たちの……定食屋だ。

温かくて、俺の誇りで、自慢で、だからこそ帰れなかった、実家だ。

でも。


「アンタ今まで何処で何してたの!心配したでしょうが!

ここ何年かは連絡ひとつもよこさないで……あけましておめでとうくらいの電話、よこしなさいよ!まったく、アンタは本当に……!」


心配しているとはいえ、これは嫌だ。

俺の母親は、大声なのだ。声量がバグっている。

こういう時は言われた言葉を素直に受け止めるのではなく、右から左に聞き流すのが一番だ。

暫くして、母は俺の隣にいる5歳児に気が付いたらしかった。


「アンタ、まさか……」


顔色を真っ青にして詰め寄ってくる。

なんだか盛大な勘違いをされていそうだ。

勘違いされたままだと余計面倒なことに発展しそうなので、


「違う、俺の子じゃない。」


と先回りして否定した。

ふうん、ならいいんだけど、と頷いた母は、それ以上深追いしてこなかった。

そこらへんは、妙に察しがいい。

相手の本当に聞かれたくないことは聞かない。

だからだろうか、定食屋の常連たちからとてつもない人気がある。

気弱な父がどうやって母を勝ち取ったのか知れない。


「まあここに来たってことはめし食べに来たんだろ。

とにかく座りな。あとで話はたくさん聞くから。」


さっさと食べて帰ろう。

身の危険を感じたものくさ太郎は、思いきり苦い顔をした。

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