第5話 外出

風呂に入って、亜里彗ありすとともに家を出た。

玄関から出てすぐ、今まで外出してなかったあまり、隣の家の人に空き巣かと疑われて警察を呼ばれそうになった。

亜里彗からは白い目で見られるし、散々である。

やはり外は危ない……もう出るのはやめよう。

毎回外を出るたびに憂鬱な気分にさせられることを、ものくさ太郎は全く失念していた。


「家政婦を雇えばよいのだ。」


空き巣騒動の誤解を解き、再びご飯を食べに歩き出したところで、亜里彗にぼそっと呟かれた。

痛いところを突く。

手続きが面倒なのだ……自分の名前や生年月日を書くのすら面倒なのに、持っていない携帯電話の番号を書けと言われるのはごめんである。

ちなみに何故携帯電話を持っていないかというと、メンテナンスが面倒だし、そもそも携帯を買いに行くのが億劫だからだ。

ものくさ太郎らしいといえば、ものくさ太郎らしい理由である。

全くこの世にこの男ほど自身のエネルギーをけちけちして使っているやつはいない。


「……何を食べたい?」


ひとまず家政婦の話は無視をしておく。

手続きが面倒くさいことを話すために、携帯電話を持っていない理由から話さなければならないのが、ちと面倒だったからだ。

亜里彗も緑鬼だからか、話をそらされたことに肩をすくめただけだった。


わらわは何でもよい。

鬼は基本何も食べなくても良いのだが、人間の飯は上手いと聞いた。

強いて言えば、日本料理が食いたい。」


また、子供らしくないことを……日本料理とは……なかなかに渋いではないか。

そして美味いところはとても高い。

いや、値段を気にすることはない。ものくさ太郎は金持ちだ。

だが……この近くに美味しい日本料理屋などあっただろうか。

しばし考えて、ひとつだけ思い当たるところがあった。

ただし日本料理屋ではなく、定食屋だが。

極力ごくりょく行きたくないところでもある。

だが亜里彗は期待に目を輝かせ、スキップでもしそうである。

さすがのものくさ太郎も、無理だとは言えなかった。


「定食屋でもいいか?」


一応聞いてみる。


「美味ければ何でも良いのだ、結局は。」


即答された。

そうか、と頷いてポケットに手を突っ込む。

吐く息が白い。

冬の訪れを感じる。

周りに虫がいないというのは良い。

ものくさ太郎は臭うため、夏に外出するといろんな虫がやってくる。

外出すればはえなどがついてくる。

こんなに煩わしいことはない。

故にものくさ太郎は夏よりも冬の方が好きだ。

春は花粉がひどいため嫌いだ。

四季の中で一番好きなのは秋だ。

自身の生まれも秋で、あの定食屋が始まったのも……秋。

あれから何年経っただろうか。


まだ生きてるよな……


ものくさ太郎は、久しぶりに両親が経営する定食屋に足を進めた。

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