さすがである

雲母あお

第1話 さすがである

今日は『きのこたっぷり炊き込みご飯』を作ろうと、いつものスーパーへ買い物に出かけた。

スーパーの入り口少し手前のところで、おばあさんが6人、雁の群れのように、1人先頭に立ち、後に5人が続きながら、ゆっくりと私の前に割り込んできたのである。


スーパーの入口には自動ドアが2枚あり、最初の両開きの自動ドアが開くと、お店のカゴとカートが置いてあり、次の自動ドアが開くと店内だ。

6人のおばあさんたちは、最初の自動ドアが開くと、3cmくらいしか進んでいないのではないかという緩やかな速度で、置いてあるお店のカゴを手に取ろうと歩いていく。そう、雁の群れを崩さず入り口いっぱいに広がって。


さすがである。

微塵の隙もない。


5番目に自動ドアをくぐったおばあさんが、みんなに聞こえる声で、お嫁さんについて話しはじめた。私は、入り口いっぱいに広がったおばあさんの後ろで、店内に入れず、6番目のおばあさんの背中を追う「7番目のおばあさん」として、あたかも一員のように最後尾にいた。

「ねえねえ、聞いてよ。嫁って何にもしないわよね。お正月に家に来たんだけど、皿は洗わない、料理は手伝わない、できた料理を運ぶこともしない。ただテレビ見て笑っていて、何にもしないよ。」

ちょっと嫌そうに言った。そうしたら、一番先頭に立つ我らがボスおばあさんが一言、

「嫁はそういうもんでしょ。どこの家も同じこと言っているわよ。」

ピシャリと、5番目のおばあさんの方を見もせず言い放つと、お店のカゴを手に、店内へ入っていく。


しーーーーーん


おばあさんたちの間に、耳が痛むくらいの沈黙が流れた。

その間にも、ボスおばあさんは、自分のペースで店内を歩いていく。すると、


さぁーーーーー


なんと、入り口で詰まっていて通れなかったおばあさんたちの間に道ができたのだ!

これは、もしやモー…、神様の…い、いや…、そんな大袈裟なものではない。しかし、ボスの一声で、スッと道が開けたのだ!


いまだ!!



私はその一瞬を逃さず、「7番目のおばあさん」の称号を返上する。サッとお店のカゴを手に取ると、道が開けたおばあさんたちを追い越し、店内へと滑り込んだ。


振り返ると、残された5人のおばあさんたちは、ボスの背中を追いかけようと、沈黙したまま各々お店のカゴを手に取ろうとしている。


やはり、その集団のボスと認められる人は、どんな集団のボスだとしても、影響力が半端ない。


さすがである。


そして前を見ると、ボスおばあさんは、舞茸をお店のカゴに入れるところだった。

もしかして、ボスもきのこ…!?


さすがである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さすがである 雲母あお @unmoao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ