第7話 夢につながる嘘
「小学生のうちにやっておいた方がいいことが
全校集会で校長先生が話している。
僕は話の内容そっちのけで自分がこれからやりたいことについて思いを巡らせた。まずは自転車で遠出して、次にゲーム機が壊されて以降数年間やっていないTVゲームをして、妹のお菓子を盗み食いして……。
実に下らなかった。
「なあ、谷口はやりたいこととかあるのか?」
集会が終わって僕は
「ぼくは、宇宙飛行士になるんだ」
「おいおい、小学生の間の話だぞ?」
「いちいちうるさいな。ちょっとまちがっただけだろ。そういう
谷口君はこの間の誕生日会以降、僕に冷たかった。
「やっぱり、グライダーかな」
「グライダー?」
「太いゴムをまいて飛ばすヒコーキだよ」
「ああ、なるほど。ほんと工作好きだよな、お前。無理やり工作部に入るくらいだし。他にやりたいことないんだな。ばっかじゃないの? ははは」
「……」
僕は谷口君の挑発を無視した。
「それで、そのグライダーってどのくらい飛ぶの?」
なんだかんだで興味があるようで谷口君が質問してきた。僕は
「500メートルくらいかな」
「そんなに!?」
「ああ。川で飛ばすとそれくらいはいけるみたいだ。なんでも川の表面に立つ波の力でうかび続けるんだって」
全て嘘だった。
「じゃあ、となり町まで飛ぶってこと?」
「そう」
僕らの住む町から広い川を越えるとそこは隣町だ。
「じゃあ、向こうで待ってるから」
週末、僕は自転車で隣町に向かった。10分ほどで到着し、双眼鏡で対岸を見ると谷口君らしき姿が確認できた。彼はさっそくグライダーを購入して組み立てたらしく、僕を試験飛行に誘ってきたのだ。
川の中ほどに墜落するであろう彼のグライダーを想像し、僕は凶悪な笑みを止められなかった。
折しも風はこちらに向けて吹いている。もしかしたらもしかするかもよ、谷口君。
僕はゼロに近い可能性をせせら笑った。
さすがに遠い。双眼鏡を使い、かろうじて谷口君が振りかぶってグライダーを投げたのだけは分かった。
グライダーは細く小さいので目視できない。すぐに見失った。ほどなくして谷口君が地面にしゃがみ込んだように見えた。
ざまあみろ。僕は一人
自転車を飛ばし、落ち込んでいるだろう谷口君のところへ急ぐ。どんな顔をしているか楽しみだ。
僕は息をのんだ。彼は声を上げて泣いていた。よほどていねいに組み立てたのだろう。悔しそうに拳を握りしめる谷口君に僕は何も言えず、笑うこともできなかった。
僕は片手で自転車を押し、彼ともう片方の手をつないで帰路についた。
「君が
「ええっ!? あ、……ごほんっ」
「でも、ぼくなら500メートル飛ばせるって信じてた」
すごいな。自信過剰もここまでくるといっそ
「次は100メートルを目標にするよ」
谷口君は笑顔でそう言い、僕の肩をたたいた。
「ゴム動力なしのグライダーで200メートル飛んだって記録があるんだよ」
僕はまた嘘をついた。
「本当に!? どこをどう作ればいいんだ!?」
すぐ人を信じるのが欠点だが、彼なら本当にやってくれるかもしれない。
「えーっとねぇ――」
谷口君はそのあと、鳥人間コンテストに出場するなど、空へのあこがれに満ちた人生を送り、今では航空機設計をしているらしい。
そのきっかけとなったのが僕の嘘ならば光栄だ。
やっぱり嘘は罪(カクヨムWeb小説短編賞2022「令和の私小説」部門応募作品)(短編) 夕奈木 静月 @s-yu-nagi
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