第21話‐DANGEROUS SPEEED⑤・中編
※今回は一話で掲載すると少し長すぎるので、前中後編にします。
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ケインが引金を引くと同時に、連なった銃撃音がビリビリと空気を震わせた。
脳天に一発、心臓に一発。そして、近くの遮蔽物を利用し放たれた跳弾が、アスマの後頭部を目掛けて飛ぶ。
当たり前のように披露される超人技である。
が、しかし——アスマも同様に、当たり前とばかりにそれを受け止めた。
心臓への一発を右手で、後頭部への一発を左手で、脳天への一発を歯で噛んで受け止めたアスマは、まるで実力差を見せつけるように受け止めた弾丸をケインへ見せつけると、その場に捨てる。
「な? ハンデは必要だろ?」
「……ハハハ。マジかよ……」
掛かって来いとばかりに手招きする敵を見て、ケインは口の端を引き攣らせた。
リロードと銃撃を繰り返しながら走り出す。今の攻防で『格上である』と判断した彼は、真っ向勝負の選択肢を切り捨て、タワークレーンの瓦礫を盾にしながら、ヒット・アンド・アウェイで隙を伺う戦法へと切り替えた。
「んな……!?」
直後、そんな暇さえ与えぬとばかりに。
跳弾を利用し四方八方から繰り出される銃弾の
そのまま檜の棒でも振り回すように、ブンブンとぶん回しながら突進して来る。
「クソっ、バケモンかよ!!」と、ケインは恐れ交じりの悪態を吐いた。その人間離れした豪傑っぷりを見れば、誰でもこうなるというものである。
「さっきクレーン打っ壊したのといい、その鉄骨といい……おっかしいだろ、その馬鹿力は! 何なんだよ、アンタ……!」
「悪ィな、ちょっと特異体質でよォ? 所謂——『
「……っ!!」
アスマの口から出た単語を聞いて、ケインは納得した。
——悪魔憑き。それは体内の生成魔力が異常に多い体質の総称である。
誰しもが体に持っている五臓
その魔力量が異常に多い為に、凄まじい身体能力を得たのが悪魔憑きである。
アスマが悪魔憑きであるのなら、先ほどからの怪物染みた怪力にも説明がつく。
「……ハハっ、なら——」
快活に笑ったケイン。腰のポーチからモリア蒼銀の破片を取り出した彼は、ルーン・カードで包み込む。間髪を入れず、それをアスマへ向けて投擲した。
「——手加減は要らねぇよな!?」
ルーン・カードに書かれた文字は『
大型の魔獣などの討伐や土木工事の現場などで使われるルーン構文である。
それの意味するところは一つ——。
『
「……っ、マジかよ……オマエ!」
コロコロとアスマの足元に転がった爆弾。すぐに青い燐光がパチパチと火の粉を吐き出し、カッ……! と、光り輝いた次の瞬間——。
視界が熱と光に染め上げられた。
「~~~~~~ッッッ……!!?」
高熱を孕んだ爆発の衝撃をモロに受けたアスマ。ゲダイエン大橋の中央、彼の苦悶に満ちた叫びさえも呑み込み、爆発の衝撃は周囲のガラクタを吹き飛ばしながら突き抜けて行く。
「ごほっ、がはっ……! あァ~、クっソ……モロに腰やったぞ、これェっ!」
衝撃に煽られて数メートルの距離を吹っ飛ばされたアスマは、そのまま瓦礫に激突。叩きつけられるような衝撃だったにも関わらず、数か所の軽い火傷と、腰の打撲以外は特にコレといったケガは見当たらない。
流石は悪憑き、と。ケインは内心で畏怖の念を抱いた。
しかし、ダメージがゼロというわけでは無ないらしい。立ち上がろうとする動きが少し鈍い。どうやら効いてはいるようだ——と、
「……おいっ、死ぬところだったぞ! ケイン!」
「安心しろって、ハンスの旦那! あのオッサンだってピンピンしてんだろ?」
「……アレと一緒にするな!」
「あァ?」と、頭上から聞こえた声に釣られアスマは空を見上げた。
すると、その視界に映ったのは二人の人物である。何時の間に登ったのか、ワイヤーにぶら下がったケインが、同じくワイヤーに宙吊りにされたハンスと共にアスマを見下ろしていた。
おそらく先程の一瞬でワイヤーを利用し上に登ったのだろう。いい腕だ。
若いながらいい手腕をしているケインを内心で褒め称えつつ——しかし、そんな感嘆の念が畏怖に変わったのは、上から降って来る何枚もの小さな短冊が花弁のように舞って来たのをアスマが認識した時だった。
チラリと視界に映るルーン構文——『
空から降って来る
「神様に祈れよオッサン! どうか助けて下さいってな!!」
ケインが親指を下に下げた勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
直後——。
耳を劈く爆発音と共に、辺り一帯が弾け飛んだ。連鎖して起こる爆発が十数秒ほど続き、辺り一帯の瓦礫をアイシス川へと吹き飛ばして行く。
「「……」」
最後のモリア蒼銀がルーン・カードに呼応し、小さな爆発を起こし終わり、音が遠鳴りに消えて行く。すぐに周囲には、余韻にも似た静寂が溢れた。
下の安全を確認したケインとハンスはワイヤーを解き降りて来ると、爆風で巻き上げられた砂埃で視界が悪い中、警戒したように歩く。
「——今ので精霊資源は使い切ったよな?」
「「っっ……!?」」
そして砂埃の向こうから、声が聞こえた。
振り向くと、薄ぼんやりとだが四角いシルエットが見える。おそらく水圧アムキュレータのタンクの破片だろう。分厚い鉄板で爆発から身を守ったのか、その鉄板が無造作に投げ捨てられると、その下から人影が見えた。
砂埃が少しづつ晴れ、その正体が明らかになる。
爆弾の雨を浴びせられ相当頭に来ているのだろう。額に青筋を浮かべたアスマが、指をポキポキと鳴らしながら歩いて来た。
信じられない、といった表情で額に冷や汗を一筋流すケイン。
その口元は強がるように笑みを浮かべているが、隣に立つハンスが顔を青くして言葉を失っている姿が、常人の正しい反応というものをよく表しており、彼の虚勢を台無しにしている。
「オイ、若造? オレのこと魔獣か何かと勘違いしてねェか?
「……まさか! 魔獣よりバケモンだろ、アンタ? もっと持って来るんだった……よ!」
精霊資源はもうない。ならば後に残るのは、この体と武器だけである。
先手必勝とばかりにピストルを引き抜き、引金を引き絞る。先ほどよりもなお鋭く、なお重厚に、目を見張る程の早撃ちで急所を撃ち抜かんとしたケインは、その中を突き進んで来るアスマの姿に恐怖しながらも、力の限り叫んだ。
「走れっ、ハンスの旦那! 今の爆発で瓦礫はどかした! コイツは俺が押さえる!!」
「っ、……分かった!」
アスマの人間離れっぷりに固まっていたハンスは、ケインの叫び声でハッとなる。
走り出した彼の視線の先にあったのは、アスマが乗り捨てた緑色の
「っ、そういう事か……!」
ケインとハンスの思惑に感づいたアスマは弾かれたようにハンスの捕獲を試みる。が、しかし。そうはさせまいと一発の銃撃がアスマの足元の地面を撃ち抜いた。
ケインである。
ハンスとの間に立ちはだかるように仁王立ちした彼は、ピストルの銃口を向けながら言った。
「……俺も冒険者だ。受けた依頼は完遂する。ここは通さねぇよ、オッサン?」
「……、……はァ~、いいぜ。付き合ってやる」
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