第13話‐DANGEROUS SPEEED①
「ジャン、ミーシャ! 急げっ!」
「あぁ、分かっているッ!」「おっけー」
【RASCAL HAUNT】の冒険者が壁を突き破って車庫へと姿を現した瞬間、【UNSAME】の三人はすぐに状況を察した。
時間にすれば三分足らず。シャーウッドの会の支持者達が全員やられた、と。
すぐさま車の運転手であるケインとジャンがハンドルを握り、ハンドルコックを全開にする。護衛対象であるハンスの乗った赤い車を先頭に、二台のレイスタン・ベルモンドを急発進させた。
「ちィっ、機械打っ壊してる奴らが機械使って逃げンのかよ!」
我先にと二台の車両へと大剣を構え、突貫したアスマ。
しかし、その制止の言葉を素直に聞くほど彼らは律義ではなかったようである。
皮肉交じりの言葉に対して返って来たのは、
一瞬にして車庫の中が蒸気で満たされ、視界の大半が青白く染まった。
「じゃあなオッサン? 健康に気をつけろよ!」
「えほっ、えほっ……っこンのヤロォ~……!?」
蒸気に遮られた視界の向こう側から、挑発的なケインの声が聞こえて来る。
煙が染みて涙目になったアスマの視界では、その声の方向は分からない。腕で顔を覆いながら大剣を振り回す彼だったが、その悪足掻きを嘲笑うように、二台の車両の走行音だけが遠ざかって行く。
すぐに車庫の中から車両の気配が消え、彼らが裏通りへ逃亡してしまった事を、アスマは理解した。
「……逃がさないわよ……っ!」
しかし、そうはさせまいと。
リボルバーを構えたキキが、そのまま蒸気の充満した車庫から裏通りへと飛び出した。その銃口の先には黒い車の後輪タイヤ——そう、彼女の狙いは空気タイヤのパンクである。
次の瞬間、バァンッ! と、一発の銃声が鳴り響く——
「……っ!?」
カタン、カタンカタン、と。地面に転がったキキの愛銃。
一瞬何が起きたか分からず、呆けた顔で彼女は固まった。だが、黒いベルモンドの上で自分を見るミーシャを見て、キキはすぐに状況を理解する。
その手に握られていたのは、スチームパンクなデザインの上下二連式リボルバーである。銃としての機能の他に、蒸気機関で動く何らかの機能を携えた、いわゆる『蒸気銃』であろう。
おそらく、先程の銃声はあの銃から上がったもの。彼女の目にも止まらぬ早撃ちによって自分の銃が撃ち飛ばされたのだ。
これの意味するところは一つ。
——自分が『早撃ちで負けた』という事、である。
「十年早い。出直して来るといい」
「……っ」
表情の起伏に乏しい口元をミーシャは僅かに上げた。
既に声が届く距離ではなかったものの、勝ち誇った笑みで見下ろして来る彼女の視線を見て、キキは無言で口をへの字に曲げる。言葉には意地でも出さなかったが、悔しさで唇をわなわなと震わせながら、真っ直ぐとその視線を睨み返した。
「えほっ、えほっ……キキっ! 奴らは……!?」
「……ダメ。逃げられたわ」
「そうか……。——クソっ……何だアイツら? 機械嫌いなンじゃなかったのかよ……!」
「……それだけ追い詰められてるんでしょ? 自分達の目的も忘れる位に」
ガンマンとしての格の違いを見せつけられたすぐ後、蒸気の煙幕が薄れた車庫の中からアスマが走って来る。
彼の質問に少し頬を膨らませながら答えたキキ。その視線の先には、既に二十メートルくらい先にまで逃げた二台の車両があった。
二台とも車に積んでいるエンジンの性能が良いのか、思った以上にトルクの上りが早い。見事に逃げ
キキとアスマの二人は、その姿を歯噛みしながら見逃す事しかできなかった。
「さて……これからどうしたもンか」
「追うしかないでしょ。このまま逃がすなんて選択肢あり得ないわ」
「分ーってるよ……オレが言ってんのは、その
流石のアスマたち冒険者といえど、車相手に足で追いつく事は出来ない。なにせ最大で八〇キロは出るのである。人の足で追いつく事など不可能だ。
このまま逃げられてしまえば、ハンス達は雲隠れしてしまうだろう。しかも、何を考えているか分からない連中である。このまま逃がすのは非常に危険だ。聖骸の使い方次第によっては、甚大な被害が出てしまう。
せめて、こちらも何か乗り物があれば、どうにかなるのに——。
そんな無い物ねだりばかりが浮かんでは消える。やはり手詰まりか……と、一瞬、アスマとキキの脳裏に暗い思考が過った。
「キキさぁ~ん! マスター!
「「?」」
そんな時だった。
声に釣られて振り向くと、先程から見えなかったルースの姿があった。二人が見遣ると、犬のように手を振りながら車庫の方を指差す彼の姿が目に入る。
「「……?」」と、意図の掴めないルースの行動に顔を見合わせたキキとアスマは、肩を竦めながら車庫の方へと足を運ぶ。
怪訝な表情でその指先の示す方へ視線を遣り、二人は驚きで目を丸くした。
「これって……車? さっきのヤツと同じ車種かしら?」
「……そういや、情報屋が言ってたな……『
そこにあったのは、緑色の車体をした一台のレイスタン・ベルモンドだった。
しばらく手入れが成されていないのか、薄っすらと灰色がかった砂や埃で汚れている。しかし、目立った傷は無く、殆ど乗車されていないのが一目で分かった。
は先ほどハンス達が逃走に使った車と同じメーカーの車である。だとしたら、積んでいるエンジンもあの二台の車と同スペックのはず。この車なら、彼らを追跡するのに十分な役者を努めてくれるだろう。
ニヤリ、と——。
それを見たアスマが何かを思いついたように口角を歪めた。
「——でかしたルース。乗れ、オマエら……第二ラウンドはカーチェイスだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます