第18話 ダメな付与術師

下層に続く階段を降り切ると、そこには少女がうずくまっていた。


「どうしたんだ?大丈夫か?」


そう俺が聞くと、


「私はダメな付与術師なんです…。放っておいてください…」


なんか深刻そうなので話を聞いてみることにした。


「ほうほう、じゃあ君が付与するためには付与対象へのプラス効果に見合わないほどのマイナス効果が必要になるんだな。そのせいでパーティにここに置いていかれたと」


「そうです…」


「ちなみに聞くが、そのマイナス効果は選べるのか?」


「まあ選べますけど…」


「そうか、じゃあ少しついてきてくれ」


そう言って俺は彼女を連れてある魔物のところまで来た。


「これはダンジョントータスだ。知ってるか?」


「まあ、伊達にダンジョンにいないですからね…」


「ちょっと見ててくれ」


そう言って俺はヴァインスをダンジョントータスに触れられるはずもない距離から一振りする。


「えっ…」


するとダンジョントータスは断面が綺麗に見えるほど真っ二つになった。


「この通り切れ味が良すぎて困っていてな」


「は、はぁ…」


「だから、マイナス効果だけでいいんだが無理か?」


「プラス効果を選んでもらわないと…。てかそんな要望初めてですし…」


「それじゃあ何があるか教えてくれないか?」


「はい」


そう言って出されたリストには見たこともないようなスキルが並んでいた。


「切れ味だったら、技量を上げるか、妖刀化する選択が主ですかね」


「じゃあ、技量を上げてくれ」


「それでは技量を剣豪と呼ばれるレベルまで引き上げます」


「ちょ、ちょっと待てそこまでとは言ってない!」


その瞬間ヴァインスが光り輝き、光が収まる頃には、最初のミスリルの輝きは見る影もなかった。

しかしそれでもよく鍛えられたことの分かるこの剣は鈍く光っていた。


「とりあえずそこら辺の壁にでも試し切りをしてみてください」


「お、おう」


壁を切りつけてみるが、びくともしない。


「それでは、切ろうという強い意志を持って壁を切りつけてみてください」


言われた通りにやってみると、ダンジョンの壁に剣で切り裂いた大きい痕が残った。


「これ、本当に切れ味落ちてるって言っていいのか…?」


「ええ、もちろんです。剣豪と呼ばれる人たちはナマクラでも上手く扱うのですから、そのくらい当たり前です」


「というか、これのどこがマイナスなんだ?調節できるようになってむしろプラスじゃないか」


「それはあなたの剣がおかしいんです!」


「そうだよな…。まあ、ありがとう!助かった」


そう言ってダンジョンを進もうとすると、


「わ、私も連れてっていただけませんか!」


「え?あ、まあいいけど。急にどうしたんだ?」


「今まで、私が役に立つことができた相手があなただけなんです!だから、連れてってくれませんか?」


「そうか、わかった。じゃあついてきてくれ」


「はい!」


そうして新しい仲間を迎え、俺たちはダンジョンの奥へ進んでいく。


「君の名前は?」


「付与術師のアミルって言います」


「アミルか、これからよろしくな。と言ってもこのダンジョンからは今日中に抜け出すけどな」


「き、今日中!?で、でもそんなこと言ったってここそんなに浅くないですよ!」


「大丈夫だ、とっておきの秘策がある」


「なんですかそれ…」


「それは後でのお楽しみだ」


「ええっ!心配すぎて夜しか眠れないんですけど…」


「ちゃんと寝れてるじゃねえか。そういえばこいつの紹介を忘れてたな、この俺の横に浮いてるやつ」


「ああ、気になってたんですけど多分、使い魔ですよね?」


「よくわかったな、こいつはファウスト。俺の使い魔だ」


『アミルと言ったか?よろしく頼む。』


「喋れるの!?」


「やっぱ喋れる使い魔って珍しいのか?」


「もちろん、魔術学校の生徒でさえそんなにいないわよ」


「実は俺魔術学校の生徒なんだ。一応な」


「ってええ!?そんな人が魔法も使わずになんでダンジョン攻略なんかしてんのよ!」


ん?口調と声色が変わってるな。


「口調と声色がさっきと違くないか…?」


「ん?ああ!えっと…いや、あの」


「そのままの喋り方でいいからリラックスしてくれ」


「わかったわ。じゃあ敬語も使わないけどいいのね?」


「もちろん。というかなんであんな喋り方を?」


「この口調だと誰も雇ってくれないから!」


「そうかそうか、じゃあとりあえず下層に向かおうか」


「その装備でこれより下へ行くつもりなの!?ってちょっと待って!!」


そうして俺たちはさらに下層へと進んでいった。

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