第16話 フロイド・エルマイト
そしてその日の学校が終わり、家に向かう。
その道中。
「やあ、アルト。久しぶりだね」
黒髪の長身で細身の男が話しかけてくる。
「久しぶり?誰だあんた」
「俺は君の親戚のフロイド・エルマイトさ。ほら、一度会ったことがあるじゃないか」
そう言われれば名前こそ覚えていないが記憶の中にこの人の姿があった気がする。
しかしフロイド・エルマイト…
同姓同名なのは偶然だろうか?
「フロイド・エルマイト…。もう片方の親の姓は?」
「カーマイトだよ」
「…!?」
カーマイトという父親の姓まで一致している…
エルマイトという家名の人はそれほど沢山いるわけではない。
しかし影武者や分身の類のように見た目が同じではなくかなり違う。
だとしたらどちらかが偽物である可能性が高い。
彼が着る服の胸の辺りには、襲撃してきた大男と同じ記章。
つまり彼が帝国の人間であることを表している。
「あんたか、襲撃の首謀者は」
「襲撃ぃ?そんな物騒なことするわけないじゃないか。ただの挨拶だよ、挨拶」
「お前ッ…!」
「やだなー、そうピリつかないでよー。大した用じゃないからさー」
「用…?」
「君の家にあった、全知の書あるでしょ。あれ、欲しいんだよね。渡してくれる?」
「あいにく持ち合わせてない。悪いな」
「そっかそっか、ならいいや。じゃあ、その使い魔をこっちに渡しなよ」
あからさまにメフィスト関連の何かを要求してくるな。
「悪いがそれは出来ないな。力づくで奪いにくるか?」
「いーや、やめておくよ。これで十分」
そう言って彼が取り出したのは、謎の液体の入った小瓶だった。
彼はそれを放り投げると瓶が割れてこぼれたその液体は勢いよくメフィストの横を掠め、彼の元に戻ると結晶化した。
「ありがとさん、これはもらっていくよ」
そう言って彼は姿を消した。
何をされたのかは分からなかったが、今回の事件が襲撃とは無関係でないことはわかる。
「大丈夫か?メフィスト」
『少しまずいかもしれんな。私の魔力を持っていかれた』
「魔力を持っていかれるとまずいのか?」
『最初から狙いは私のようだった。魔力を採取して何かに使うのだろう』
「その狙いがわからないんだもんなぁ」
『帝国に行ってみる必要があるかもしれないな』
「学校もあるからな」
『そうだな、長い休みに入らないといけないな』
そう話して家に帰った。
この時はまだ事態の深刻さに気づいていなかった。
◆◆◆
フロイドは手の上で紫色の結晶を転がしながら言う。
「これさえ手に入れば問題ない。あとはあいつが完成させるのを待つだけだ。そういえば、グラムクの火傷は治ったのか?」
「それが…かなり特殊な炎のようでして」
それを聞いてフロイドは笑みを浮かべる。
「そうだよなぁ。いや、そうでなくては困る」
「ここからはどうしましょう?」
「正直今ここにいてももう意味はないからな。一度帝国に帰ろう」
「承知」
◆◆◆
「2人のフロイド・エルマイトか…。一体どういうことなんだろうか」
『学校の教師をしている方は【核読み】の存在を知っている。ただ、核術師については分からないな。もう1人の方は、多分私の正体に気づいている。危険度が高いのはそちらだ。警戒するべきはそちらになるだろう』
「そうだな。ひとまずこれからの奴の俺への接触に警戒するべきかもしれないな」
そう話してその日は寝ることにした。
翌朝、起きてから学校が休みだったことに気づく。
「今日は休みかぁ…。それじゃあダンジョンにでも行ってみるとするか」
『そうだな。今はDランクのダンジョンまで入れるのか』
実は俺が昔研究していた魔物の核はダンジョン産が非常に多い。
というのも、ダンジョン内ではごく稀に核を破壊して倒したとしてもその核が復活することがある。
これはダンジョン内の特定のトリガーを引くことによって起こる不死の呪いのせいであり、これによって死ねなくなってしまい、ダンジョンを彷徨う元冒険者などは一般的に
ただ、実際にはほとんど死んでいるのと同じで意識があるわけでもなく、ただダンジョンの防衛機構として機能するのみなのである。
「ついたぞ、ここがDランクダンジョン」
『一層は確かほとんど制圧済みで安全らしいからな、まずはそこに行ってみよう』
そうして俺たちは初のダンジョンに足を踏み入れたのだった。
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