幼馴染が心に掛かりて

月之影心

幼馴染が心に掛かりて

 「たっくん!遊びに行こうよ!」


 「おぅ!何処行くんだ?」


 「えっとね、公園でブランコして、お砂場で山作って、山田のばあちゃん駄菓子屋とこ行きたい!」


 「おっけー!」


 隣の家に住んでいる同い年の女の子は、しょっちゅう家に来て俺を遊びに誘ってきた。

 公園に行って駄菓子屋に行って、また公園に戻って来て買って来たお菓子を一緒に食べるのが俺とその子の行動パターンだった。

 俺とアイツは、本当の兄妹のように仲良く過ごしていた。



 「これ、借りてたノート。助かった。」


 「たっくん、宿題は自分でやらないと意味が無いよ?」


 「分かってるって。次は自分でやるから。」


 「約束だからね?」


 「武士に二言はない!」


 「いつの間にかたっくんが武士になってた。」


 中学生になっても、お互い馬鹿な事を言い合って楽しく過ごしていた。

 いつからだったか、『兄妹』と思っていたのが『姉弟』みたいになっていた。

 アイツの方が学校の成績が良かったからかもしれない。



 「ん?」


 「な、何だよ?」


 「んー、何で目を逸らすのかなぁ?っと思って。」


 「!!……べっ別に逸らしてるわけじゃないし……」


 「ん~?なぁんか怪しいぞぉ?」


 「あ、怪しくねぇっての!てか人の顔をジロジロ見るなって!」


 「えー?別にいいじゃんかー……ってまた目を合わせようとしてない!」


 「う、うるさい!」


 中学3年の頃だったか、アイツの事を見ると落ち着かない気分になっていた。

 夏休みになって夏期講習が忙しくなってそれまでみたいに毎日会えなくなると、アイツの姿が見えてもいないのに胸の中がザワザワしていた。

 そんなよく分からない感情を誤魔化すように勉強に打ち込んだのが良かったと思えたのは、卒業間近になってアイツと同じ高校に合格していたと知ってからだった。



 「幼稚園から高校までずっと一緒とか、最早腐れ縁だねぇ。」


 「まったくだ。」


 「たっくんは私と同じ高校に行くの、嬉しくない?」


 「は?え?いや……その……」


 「私は……嬉しいよ。」


 「え……」


 「たっくんと同じ高校ならまた一緒に居られるでしょ?」


 「え……あ……う、うん……」


 「高校でも仲良くしてね?」


 「!?も、勿論!」


 「ぷっ!何でそこで大きな声になるのよ。」


 中学の卒業式を終えて、一緒に家に帰る途中に見せたアイツの笑顔は、少し目を赤くしながらも本当に嬉しそうだった。

 思わず声が裏返って大きな声になってしまって恥ずかしかったけど、アイツの笑顔が見られた事と、高校でも一緒に過ごせる事が分かって、ニヤケる顔を隠す方が大変だったように思う。



 「あんなに仲良さそうにしてるんだから幼馴染以上じゃないの?」


 「幼馴染以上って何?まぁ、たっくんとは幼稚園に入る前からずっと一緒に居るから……姉弟みたいな感じ?」


 「えー?周りからは『姉弟』って言うより『夫婦』って感じに見えるけど?」


 「ふうふ!?私とたっくんが!?あはははっ!無い無い!」


 「そぉかなぁ?いい感じに見えるけどねぇ。」


 「アンタとこも弟居るじゃん?仲いいよね?夫婦に見られたりする?」


 「あるわけないじゃん。」


 「それと一緒だと思うよ。」


 「そんなもんかぁ。ちょっとラブコメ展開期待してたんだけどなぁ。」


 「あんなの漫画の中だけだって。」


 アイツが友達と話している声が聞こえて来る。

 ちょっと前からアイツの声すらも俺を落ち着かない気分にさせていた。

 しかし俺との関係を突っ込まれているみたいだが、よりによって弟かよ。

 俺の事を身内同然に思ってくれるのは悪い気はしないけど、何だろう……胸の奥にあるモヤモヤが治まらない。



 「えっ!?告白!?」


 「あぁ。お前の幼馴染、サッカー部の先輩に告白されたらしいぞ。」


 「そ、そうなんだ……へぇ……」


 「へぇ……って、いつも一緒に居て仲いいのに相変わらず冷めてんな。」


 「べ、別にいいじゃねぇか……」


 「そんな空かした態度してたらその内他の男のモノになっちまうぞ。」


 「そっ、それは俺がどうこう言える立場じゃねぇし……」


 「ふぅん……ま、お前が言えねぇんなら俺たち外野は余計に何も言えんけど。」


 「あ、あぁ……」


 今まで生きて来た中で、ここまで恐怖を覚えたのは初めてじゃないだろうか。

 背中に冷たい汗が流れた。

 心臓が握り締められたかと思うくらい痛くなった。

 アイツが居なくなる事がここまで怖いと感じるとは思わなかった。



 「はい、これ。」


 「ん?午後ティー?」


 「好きでしょ?」


 「え?あ、あぁ……うん……」


 「付き合いが長いと好き嫌いがよく分かるよね。」


 「そ、そうだな……」


 「同意したって事は、たっくんは私の好きが分かるのね?」


 「え……っと……」


 「外したら罰ゲーム。」


 「ちょっ!?……え、えっと……綾鷹?」


 「ハズレ。罰ゲーム決定です。」


 嬉しそうにそう言ったアイツは、俺の首に両腕を回して抱き付いて、俺の頬に可愛らしくキスをした。

 唖然とする俺に抱き付いたまま、体を小さく震わせてアイツは言った。

 アイツの『好き』は俺なんだと。

 驚いて体を離そうとする俺に、アイツは更に力を入れて抱き付いてきた。

 今、顔を見るのはダメなんだそうだ。

 くっつけてきてるほっぺがやたらと熱い。

 俺は抱き付いている彼女の背中に腕を回して抱き抱えるようにして体を支えた。


 アイツの姿を見ては落ち着かなくなり、アイツの声を聞いても落ち着かなくなっていた俺は、今日やっと落ち着けたような気がした。

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