7
仕事が休みの日。緑雨が来るまで俺は、一通りの家事を済ませると、大抵の場合睡眠薬を飲んで寝てしまっていた。子どもの頃からの癖だ。
子どもの頃は、睡眠薬なんかなくてもいくらでも眠れた。眠って、目を覚ましたら次の日になっている。そのワープ機能がなくてはやっていられなかった。
孤独だったのだ。あの頃、父も母も休日など関係なく働いていた。俺はいつだって一人だった。
その癖は大人になっても変わらず、土曜日の午前中は家事、午後には睡眠薬を飲んで眠り、日曜日は朝から睡眠薬を飲んで眠る。そうやって孤独な休日をやり過ごしていた。
そのことを、セックス後のぼんやりした頭のまま緑雨に話すと、彼は少しも驚いた様子は見せず。そっか、と淡く微笑んだ。
緑雨は何を言っても驚かない。多分、色んな人と重ねた色んな夜が、緑雨の落ち着きを形作っている。
「睡眠薬は中毒になるって言うから、あんまりよくないかもね。」
俺に腕枕をしたまま、緑雨が静かに言う。
「だから、セックスしようか。明日、家事が終わったら。疲れて眠くなるくらいの。」
甘い囁きだった。
俺は黙って緑雨の肩口に顔を埋めた。
睡眠薬中毒とセックス依存症。どっちがましかなんて分かりはしない。
それでも、緑雨の言う、『疲れて眠くなるくらいのセックス』は、確かに俺の心を動かした。
与えられる快楽を想像しただけではない。今度の休みは一人ではないと、ただその事実が胸に染みたのだ。
いつか緑雨はここを出て行く。
それは分かっていた。いつまでもひとところに収まっていられる男ではないのだと。それでもとにかく、明日と明後日、俺は孤独ではない。
それがただ、嬉しかったのだ。
「……嬉しそうな顔、してるね。」
俺の顎を摘み、表情を確認した緑雨は、微かに眉を寄せるようにして笑った。それは、どこかが痛むようなそんな微妙な表情だった。
「どこか痛いの?」
思わず俺が聞くと、緑雨は首を横に振り、そして俺の身体を両腕できつく抱いた。
「痛くないよ。ただ、ケイスケはずっと痛かったんだろうなって、思っただけ。」
緑雨の顔が見たいと思った。嘘つきの顔をしているのか、それとも少しは本気なのか。
けれど俺の顔は緑雨の胸に抑え付けられて呼吸すら危うく、表情を確認するどころではない。
だから俺は、嘘だ、と思った。
全部嘘。そうでなくては、心の奥の奥まで緑雨に許してしまえは、俺はもう一歩も動けなくなる。
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