5
緑雨は昨夜とは別人みたいな仕草で俺を抱いた。それはきっと、相手を飽きさせないための緑雨の常套手段なのだろう。
だけど俺にはそれは逆効果で、ふと怖くなって緑雨の肩にしがみついていた。
「昨日と同じにして。」
訴える声は、どうしようもなく震えた。
昨日と別の男に抱かれているみたいで、不安で仕方がなかったのだ。男相手でも女相手でも、性的な経験があまりないせいかもしれない。
「昨日?」
緑雨は怪訝そうに俺の顔を覗き込んできた。
顔を見られるのが恥ずかしくて、俺は手近にあった枕をつかんでそれで顔を隠した。
けれど緑雨は枕を力ずくで取り上げると、ひょいと俺と目を合わせる。
「昨日と同じって、なにが?」
そこで俺は、緑雨が意図して抱き方を変えているわけではないのだと知る。
無意識でセックスの仕方をここまで変えるなんて、どこまで性的な人間なのだろう、と、俺は驚いてしまう。
「ねえ、なにが?」
黙ったままの俺に、緑雨が再度問うてくる。
緑雨が無意識だと知ると、俺はセックスの仕方を昨日と同じにしてほしい、などと説明するのがどうにも恥ずかしくて、なんでもない、と、口の中で言葉を噛み潰す。
「なんでもないってことはないでしょ。」
緑雨の大きな手が俺の髪を無造作にかきあげた。表情がさらに露わにされるのが嫌で、俺は緑雨から思い切り顔を背けた。
それでも緑雨がまだ目線を合わせてくるので、俺はついに観念してごにょごにょと言葉をかき回した。
「……しかた。あの、せっくす、の……。」
「しかた? セックスの?」
「……はい。」
短いとは言えない沈黙があった。
俺は緑雨から視線をそらしたまま、枕を取り戻して顔を隠した。
沈黙を破ったのは、そっかー、という、緑雨のいっそ無邪気とも言えるような、単純な納得の声だった。
「ごめん、気にしたことなかった。昨日って、俺どんなだった?」
それを俺に説明させるのか、と、俺は目をむいて首を左右にぶんぶん振った。
緑雨はそんな俺を見て、声を出して笑った。
「説明してくれないと分からない。」
「いや、いいです。もういいです。」
「それじゃ俺の男がすたるでしょ。」
「すたらないから。気にしないでください。」
「気になるよ。昨日のほうがよかったってことでしょ?」
「いや、それは違くて、」
昨日と同じ人に抱かれているという実感がほしい。
その言葉は、俺の唇からぽろりと零れ落ちた。
「え?」
緑雨は虚をつかれたように目を瞬いた。
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