つまらない俺によく似た、つまらない部屋。その奥には、ただ眠るだけにしか使ってこなかったベッドがあるきりだ。

 また、この男に抱かれる。

 そう思うと胸が苦しくなる。

 俺には緑雨を追い出せないと言った葛西さんは正しい。俺は緑雨から与えられる快感を知ってしまっているし、緑雨に抱かれている間は寂しくないと、そんなことも知ってしまっている。

 緑雨は俺をベッドに座らせると、自分もぴたりと身を寄せて腰を掛けた。緑雨の腕が俺の肩を抱くと、昨夜と同じ香りが仄かに漂う。

 「ケイスケは俺を追い出したい?」

 分からなかった。少なくとも、追い出すのが正しいとは知っていた。そして、それでも自分が緑雨を追い出せないことも。

 こうやって緑雨が色んな人のところで色んな夜を越してきたことくらい、分かっている。俺は全然緑雨の特別なんかではない。

 それでも、一人は寂しかった。

 首を横に振ると、勝手に涙が出てきた。右目からひとつ、左目からひとつ。

 いい年をした大の男が泣くなんて、自分の情けなさに嫌気が差した。

 「なんで泣くの?」

 緑雨の声は、耳から流れ込む甘ったるい毒薬のようだった。

 「追い出したくないんなら、俺はケイスケの側にいるよ?」

 耳から流れ込む毒薬が、俺の思考をめちゃくちゃにする。

 気がついたら、俺は緑雨の胸にしがみつき、彼の肌の匂いに酔っていた。

 葛西さんの切れ長いあの目が頭の隅をかすめたけれど、それはもうなんの抑止力にもなってくれなかった。

 「自分で脱いでみて。」

 緑雨が耳元で囁く。

 俺は機械仕掛けみたいにぎくしゃくとワイシャツのボタンに手をかけた。

 汗ばんでいる。シャワーが浴びたい。

 もちろん言い出せないまま、緑雨の視線にさらされながら、服を脱いでいく。

 俺は自分の意志でこの男に抱かれるのだと、頭に刷り込むために緑雨は俺に服を脱がせたのだろう。多分それだって、いつもの手だと分かっている。

 分かっているのに、どうしようもなく俺は、色気のかけらもない、ぎこちないストリップを続ける。

 緑雨はじっと俺の手を目で追っていた。

 服を全部脱ぎ終わると、緑雨は子供にするように俺の両手を取り、彼の膝の上に座らせた。頭半分以上身長が違うから、俺は緑雨の首筋あたりに顔をうずめることになる。

 「いい子。」

 囁き声を耳に直接流し込まれ、俺の理性はまた霞がかっていく。

 





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