第40話 前哨戦


迎えた第8節、対戦相手は海のダンジョンだ。試合は静かな立ち上がりを見せていた。


「攻めてこないな。」


 攻撃部隊をSランクのレヴィに率いらせることが多かった海のダンジョンだがここまで動き無し。


「あっさり、1層取れてしまった。」


 相手が無理をせず攻められたら素直に引いていくため、斥候部隊だけで簡単に第1層の攻略が終わる。


「とはいえ、罠の可能性もあるし慎重に進まないといけないよな。」


 これだけあっさり侵入を許すならば、俺たちがやっている誘い込んで襲撃するような戦術を海のダンジョンがとっている可能性を疑わざるを得ない。


「地のダンジョンからいろいろ情報はいってるだろうし攻めるのは得策じゃ無いって考えたかな。」


 ここまで3時間、斥候部隊はグレードアップしたとはいえBランクで構成されており、Aランクの魔物はいない。敵のAランク以上が含まれる部隊の奇襲を受ければどうしてもある程度やられるリスクは負ってしまう。慎重に罠を警戒するので緊張状態が続く。


「さっそくアースリザードは戦力になっているみたいだな。」


 遠くからアースリザードとキャノンダイルの遠距離砲が飛んできてこちらに狭い2層の入り口から侵入しようとした斥候部隊にダメージを与えてくる。


「一度ダメージを受けた魔物は撤退して回復か。これが続くようなら前線にヒーラーを回した方が良いかもしれないな。」


 斥候部隊にはヒーラーであるドライアドを投入していなかったがもしかしたら投入した方がいいかもしれない。これも実戦でこそ得られる経験なので試行錯誤するしかない。


「ルイスも同じ考えみたいだな。」


 こちらの戦力の負傷と第2層の侵入が難しそうだと報告を受けたルイスはすぐにドライアドを前線に送った。ここで膠着状態になることが容易に想像できたのだろう。


「ディーヴァの索敵が地味に厄介だな。」


 定期的に聞こえてくるディーヴァの歌声でこちらの位置と人数を特定してるのがわかる。こちらが下手に動けない以上消耗戦が続く。


「こっちもキャノンダイルを使って敵の遠距離砲を牽制してるけど、なかなか前に進めないな。前で孤立するとすぐにそこが叩かれるだろうし、難しいな。」


 無理はできないので時間だけが過ぎていく。お互いにほとんど戦力は削られていない状態で時間だけが過ぎていく。ついに戦闘開始から9時間が経過する。


「さすがに時間が無くなってきたな。」


 こうなると選択肢は2択だ。勝利を目指すために戦力を投入して攻め込むか、このまま無理をせず、両負けを受け入れるか。


「向こうも同じ判断を迫られるだろうけど、攻め込むとこっちのダンジョンに罠が仕掛けられてるのはわかってるだろうし、攻めては来ないだろうな。」


 最後の最後にリスクを負って攻め込んでカウンターを食らうのではここまで我慢して守備に回った意味が無い。


「そうなるとあとはルイスがどう判断するか。」


 一応攻める手段としてはルインを投入してパワーでゴリ押すこともできるしメアを1回につれて行けばヴァルの作った杖のおかげで範囲の広がったドリームワールドで敵陣全体を眠らせることも可能なはずだ。そうすれば確実に勝てるはずだが敵のディーヴァの索敵に引っかかって情報を拾われるのはおいしくない。


「今のところ意識が落ちて気がついたときには反逆させられてることしか情報は持たれてないはずなんだよな。」


 Sランクが複数いることはまだバレてないはずなのでそれがバレるリスクはまだ負いたくない。俺はそう考えるし、おそらくルイスも同じ考えだろう。時間だけが経過し、残り2時間になる。


「ディーヴァの索敵が飛んできたすぐ後ならバレない可能性は高いか。」


 少しずつずらしてあるとはいえ一定間隔で飛んでくる索敵はタイミングさえ気をつければ躱すこともできそうだ。


「ルイスも自陣のかなり前線に近いところまでメアを連れて行き、投入するか迷っているようだ。」


 索敵にさえ引っかからなければ通る確率は高そうだけど絶対通るわけじゃ無いのが判断に困るところだ。


「諦めたか。」


 残り1時間になったところでルイスはメアを引かせた。海のダンジョンとはプレーオフで戦う可能性もあり、ここで手の内を明かすのが得策とは言えないという判断もあっただろう。こうして、このリーグで初めての引き分け両負けという試合が誕生したのだった。



第8節成績


創●vs海●

炎●vs地○

鋼●vs聖○

空●vs獣○

氷●vs邪○


「どうして攻め込んでこないのよ。」


 海のマスターと繋げた通話で最初に言われたのはそんな言葉だった。


「別に手の内を明かす必要も無いからな。」


 そう伝えても海のマスターは不服そうだ。


「どうせ多少手の内見せたところで戦力はそっちの方が上なんだからだいたい力押しで勝てるでしょ。そんな堅実に戦わないで少しはこっちにも勝ちの目見せなさいよ。」


 やはり情報を拾うのが目的だったようだ。お互いにプレーオフを見据えたチーム同士の終盤戦はこういう試合が発生する可能性もある。勝ちに余裕が無いとできない戦いだが目の前の勝利を捨ててでもプレーオフでの勝ちは価値が高い。その結果、探り合いの戦いが終盤で発生するのもこのリーグの面白いところだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る