第36話 鋼の決断

「今回の戦いで感じたけどやっぱり対空能力って大事だよな。」


 鋼のダンジョンは総攻撃してるにもかかわらずフェニックスたちに為す術無く突破を許したことで無理攻めせざるを得なくなった。俺たちにはフェニックスやホーリーフレアイーグルの上空部隊がいるがそれも水属性相手では相性が悪い。地上からストームキャノンダイルなどで砲撃する選択肢もあるがやはり上空部隊は他にも欲しい。


「そうね。あたしたちがこれからフレアイーグルの爆撃部隊を戦術に取り入れるなら他のダンジョンも対空に力を入れざるを得ないわけだしフレアイーグルの対策だけで制空権を失うって状況は避けたいわ。」


 今回、前線を突破された後の立て直しにもホーリーフレアイーグルたちは貢献してくれた。それゆえに制空権を1つの属性に依存するのは相性が悪かった場合にかなり厳しい立ち回りが求められるようになる。


「依存と言えばうちのダンジョンって長距離砲もキャノンダイルたちに依存してるよね。」


 こちらも難しい問題で中距離で言えばリッチたちが使う魔法が届くのだがこちらも敵の後衛を叩けるほどの射程は持っておらず、後衛同士の打ち合いになるとやはりこちらもキャノンダイルに頼り切りになってしまう。


「ああ、そういえばそっちは近々解決するかも。」


 ルイスがしまったと表情をする。また何か俺に報告してないことがあるらしい。


「またなんか実験してたのか?」

「そういうわけじゃないんだけどね。前に空のダンジョンとのトレードでギタイトカゲを入手してきたでしょ。あれがみんなグランドリザードに進化してようやく1体アースリザードに進化したのよ。」


 空のダンジョンから手に入れたDランクの魔物であるギタイトカゲ合計7体。それが全て進化していたらしい。


「全部地属性進化なのか。偶然か?」


ギタイトカゲは時間はかかるものの手間暇かければドラゴンにまで進化すると言われる魔物だ。その一方でCランクに進化するまでどの属性のドラゴンに進化するかはわからないとされている。ドラゴンは強力なブレスを持っており、それは長距離砲として欲しい戦力だ。


「確率で引き続けたってのは考えづらいわよね。もしかしたらフレアイーグルの時みたいに何かの条件で進化先が変わったかもしれないけどもう検証のしようが無いわね。」


 手持ちにもうギタイトカゲがいなくなった以上、新たにギタイトカゲをトレードしない限りその確認はできないがそのためだけにトレードに出るとなるとコストと時間をかけて成果が出なかった時が厳しすぎる。


「なら、別の解決策を用意するしか無いな。それも対空の課題も解決できるとっておきの。」


 俺はそう言いながら新たにトレードの交渉を始めるのだった。




「昨日の戦いは見事だった。良くもあそこまで多くの強力な魔物を育てたものだ。創のマスター。」


 通話に出た鋼のマスターは最初にそう言った。


「フェニックス2体にホーリーフレアイーグル、フェンリルと後方にはストームキャノンダイルまでいたようだな。おぬしは少なくとも5体のAランクを保有している。そんなダンジョンは他にあるまい。それにおぬしのところのSランクの強さも異常だった。あれほどの戦力が揃っているのならこれ以上動かなくても今シーズンの優勝は間違いあるまい。」


 どうやらこれ以上戦力を強化しなくても優勝はできるはずなのに何を望むのかと鋼のマスターは問うているらしい。


「俺たちの目的はダンジョンリーグで勝つことじゃ無くていかに強力なダンジョンを作るかだろ?俺はそのためには努力は惜しまないさ。」


 ダンジョンリーグで勝つことは目的ではあるがそれはゴールでは無い。そもそもダンジョンリーグで勝つことは自分たちの強さを誇示するためのものだ。それで満足してしまってはそのダンジョンは遠からず滅びるだろう。


「なるほど。ダンジョンリーグは手段に過ぎぬか。それでおぬしは私に何を望む。」


 さて、ここからが本題。


「あんたの持っている龍のカードを譲って欲しい。」


 地と水以外のドラゴンが召喚できれば長距離砲と対空の問題が同時に解決できる。地龍でも長距離砲の問題は解決できる。水龍だと長距離砲の問題は解決できないが対空の問題は解決できる。そしてドラゴンのSランクを召喚できればおそらくダンジョンに現れるDランクはギタイトカゲだ。


「ふむ、ちょうど使おうと思っていたカードだがおぬしは代わりに何が出せる?」


 対価によっては考えるということか。


「俺の指名権とBランクのカード1枚でどうだ?」


 鋼のダンジョンは既に1勝4敗。プレーオフ進出に最低でも勝ち越しが必要と考えると残り4戦を全勝しても他のダンジョンの動向次第でプレーオフに進めない可能性のあるかなり厳しい立場だ。だから将来の指名権とBランクのカードでも悪くないトレードのはずだ。


「確かにこれから今シーズン勝負に出てもプレーオフ進出は絶望的、進出できたとしても私のダンジョンの戦力ではおぬしには届くまい。前シーズンも振るわなかった私たちは決断を迫られているということか。」


 鋼のマスターは自分に言い聞かせるように言う。


「しかし、その条件では呑めぬ。」


 少し間を取った鋼のマスターは条件を否定した。


「おぬしのダンジョンは今一番優勝に近いダンジョンだ。それも頭1つ飛び抜けてな。それで得られる指名順では選択肢はほぼ無いに等しい。それにBランクのカードがついたところで2位で獲得した龍のカードに釣り合うとは思えん。」


 俺は既に6つの指名権を持っている。その中で自分の指名権が一番最後の順番になると踏んで放出しようとしている。逆に向こうは必ずしも交渉に乗る必要性は無い。相手には譲歩を引き出す権利がある。


「なら、あんたは何を望む?」


 今度は俺が問う番だ。


「そうだな。このままでは私がおぬしに近づくことは無いだろう。指名権の他におぬしのところの魔水晶というのはどうだ?」


 なるほど。俺の育成力を奪って自分の育成力をあげるか。


「わかった。その条件でいい。」


 でもそれはダンジョン内の魔水晶の数がほぼ拮抗してる状態での話だ。俺のダンジョンの魔水晶の数は明らかに他のダンジョンより多い。例え1つ渡したところでその差は縮まらない。


「即答か。やはりおぬしのところには私たちよりもたくさんの魔水晶があるようだ。これでもおぬしには届かぬか。」


 わかっていて試したのか。確信を得るために。一本取られたな。それでも龍のカードは入手できた。それをプラスと考えよう。

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