第34話 本命

 全勝対決で相性有利な海が勝ったことで全勝は俺たちと海のダンジョンの2つに減った。続く2勝は地、炎、邪の3つでプレーオフを考えるならこの上位半分に残り続ける必要がある。


「さて、ここまでは予想通りだな。」


 獣のダンジョンはフレアイーグルを補強したことで氷のダンジョンにかなり有利に立ち回れたことだろう。そして、戦力を強化した地のダンジョンも順当に勝ちを重ねていった。


「次の段階に入るか。」


 俺は次のトレードのメッセージを送る。相手は聖のダンジョン、現状崖っぷちの1勝のダンジョンで次は絶対勝ちたいだろうダンジョンだ。こちらの提供する手札はフレアイーグルとゴブリンジェネラル、次の対戦カードが氷の聖のダンジョンにとってはフレアイーグルの価値は高い。そこにもう1体Bランクの魔物が手に入るトレードは考える価値はあるはずだ。


「少し考えさせてくれ、か。」


 トレードの対価でドラフト指名権か前回のドラフトで獲得した水のAランクのカードを求めたことで聖のダンジョンは現在の戦力を失うこと無く補強はできるわけだ。ドラフト指名権は将来の戦力を失うことにはなるし、おそらくもう少しで召喚できるようになる保有してるAランクのカードはトレードに出してしまえば最大の逆転の目を失うことになる。出すとしたら指名権の方だろう。代償がそれなりに大きいがこれ以上の補強の交渉は他のダンジョンとはおそらくできない。今シーズンにプレーオフを目指すか諦めるかの選択を迫られているのだ。



「交渉成立だな。」


 翌日、追加でゴブリンセイバーとゴブリン3体を出すことで交渉は纏まった。やはりドラフト指名権との交換になった。これで俺は空、地、獣、聖と自分の指名権を含めて5つのドラフト指名権を手に入れた。


第4節成績

邪●vs創○

海●vs地○

獣●vs炎○

氷●vs聖○

空●vs鋼○


 ついに海が負け全勝の単独のトップになった。


「さて、これからが本番の交渉だな。」


 布石は打った。今回の作戦の最大の狙いは次の交渉。さっそく2つのメッセージを送るとすぐに片方から通話がかかってきた。


「あなたが黒幕?」


 開口一番、氷のマスターはそう聞いてきた。


「何のことだ?」

「2戦連続でフレアイーグルと当たった。そんな偶然はあり得ない。黒幕がいると考えるのが自然。今そんなことができるのはあなただけ。」


 たくさんの魔物がいる中で複数のダンジョンに全く同じ魔物が召喚される可能性はかなり低い。しかも、最初のシーズンにいなかった魔物が急に複数のダンジョンにいるというのは不自然だ。となると誰かが増やして配っていると見る方が自然だ。そして、今その領域までダンジョンを発展させられているのは俺しかいないだろう。


「まあ、2つのダンジョンとトレードしたのは事実だ。その余波で君のダンジョンが窮地に陥ってるようだけど決して狙ったわけではないよ。」


 実際はこのトレードのために狙ったわけだが事実をそのまま伝える必要は無い。


「それで水属性のAランクが手に入る交渉って何。あなたがくれるの?」


とぼければそれ以上は追求しても水掛け論にしかならないのは向こうもわかっているのだろう。マスターが使えるカードの都合上、氷のダンジョンには氷属性の魔物が多くなる。そうなると必然的に炎属性に弱くなるため氷のマスターはこれから対策の魔物を揃えないといけなくなった。俺がこれからも炎の魔物をばらまき続けるなら、対策しなければ氷のダンジョンはどんどん不利になる。


「俺もそんなほいほいAランクが出せる戦力はしてないよ。君は聖のダンジョンから水属性の魔物を入手するんだ。向こうにも連絡済みだ。」


 この話をしている間に聖のダンジョンからは条件が整うならそれでいいと連絡を受けている。


「何を出せばいい?」

「雷のAランクのカードを聖のダンジョンに、ドラフトの指名権をこっちに送って欲しい。それとバレットダイルを送るから追加で氷のBのカードも貰えるかな?」


 俺は今回のトレードで獣ダンジョンから手に入れた翔Aのカードとゴブリンセイバー3体を聖のダンジョンに送る。聖のダンジョンはAランク1体の代わりに氷のダンジョンから貰う雷のカードも含めてAランクの魔物が1体分とゴブリンセイバー3体。氷のダンジョンはドラフトで水属性の魔物が入手できるカードが手に入るかわからないため確実に入手しておきたい状況だ。


「わかった。水の魔物2体でその代償なら問題ない。」


 Aランクを含めて相性補完の魔物が2体手に入るなら乗らない手は無いだろう。とはいえ、それだけ補強しても炎の魔物だらけの炎のダンジョンは厳しいだろうが。元々、炎のダンジョン相手はAランク1体補強したところで厳しかったので割り切っていた部分もあっただろうがこれだけ炎の魔物だらけの状況は想定外だったはずだ。


「これで交渉成立と。」


 聖のダンジョンにも連絡して手続きを進めて交渉を終わらせる。


「これで上位の指名権2つ目かな。」


 氷のダンジョンは既に1勝3敗。まだ炎のダンジョンとの戦いを残してると考えると確実にもう1敗はするだろうから4敗はするだろう。序盤にこれだけ足を引っ張れば後半に海、地と前回の上位を控える氷のダンジョンは上位指名候補だと予想しての計画だった。シーズンを諦めて上位指名狙いをされると俺たちに上位指名権が回ってこないためどうしても指名権を狙うために水属性のカードが必要になったわけだ。

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