第31話 格付け


「ねえ、マスター。さっそくだけどこれ1本使わせて貰っていい?」


 話が一段落したタイミングでルイスは切り出した。


「別に構わないけど何に使うんだ?」


 問われたルイスはニヤッと笑う。


「ガキの調教よ。自信過剰なバカに現実を教えてあげるの。」


 ルイスはそう言ってダンジョンへと戻っていった。




 ルイスを追って映像をダンジョンの中に切り替える。ルイスが向かったのはノルンのところ。初戦は同期二人が大活躍の中まさかのメンバー漏れ、活躍のチャンスすら貰えず喚いたあげくふて腐れているのは知っていたがどうするつもりなのだろうか。


「あんた、召喚されてすぐに言ってたわよね。あたしより強いことが証明できればリーダーにしてくれって。面白いこと言ってくれたわね、あたしに勝てるなんて。」


 ルイスがいきなりけんか腰に話しかける。


「ノルンは最強なの。ノルンの能力の前ではみんな無力なの。だからリーグもノルン一人いればみんな勝てるの。」


 ノルンは相変わらず自信の能力に絶対の自信を持っている。


「いいわ。なら、証明してみなさい。あたしに勝てたならあたしがあなたをリーダーにマスターに推薦してあげる。その代わり、あたしが勝ったらその時はあたしの眷属としてあたしの下につくこと。」


 チャンスをやるから代わりに負けたらなんでも言うことを聞け。最強を自負するノルンがここまで挑発されたら乗るしか無い。二人は戦いやすいようにルイスが根城にするボス部屋へと移動する。


「おいおい、そんな話聞いてないぞ。大丈夫なんだろうな。」


映像を見ていた俺は心配になる。


「たぶんだけど大丈夫だと思うわよ。」


 ヴァルとの話し合いを終えたシトリーが部屋にやってきた。どうやらあの二人が戦うと知って退避してきたようだ。


「ヴァンパイアに時間停止は相性良くない。でもノルン、それしか対抗手段ない。」


 一緒にやってきたメアも同じ意見なようだ。


「まあ、見てればわかるわよ。」


 シトリーは心配しなくていいと確信を持っているようだった。



画面では戦闘が始まる。


「それじゃ行くわよ。」


 ノルンが準備ができたのを確認してからルイスが声をかける。


「いつでも来いなの。」


 ノルンは基本的にカウンターのスタイルを好む。未来視を使ったカウンターで相手の弱点を突くのが基本。逆に距離を詰めるのはあまり得意では無い。だから、必然的にルイスが先制で攻めていくことになる。


「それじゃ、躱してみなさい。」


 ルイスがノルンに突っ込む。すごい速度で詰めあっという間に一撃入れてノルンを吹っ飛ばす。


「ノルンは未来視で見えてたんじゃ無いのか?」


 未来視を使っている割にはあっさりと攻撃を受けた。


「全力で使ってますよ。それでも受けることすら許されないんです。」


話している間にも起き上がったノルンが再び吹っ飛ばされる。


「マスターはルイスさんの能力をどう評価してますか?」


 シトリーから質問が飛んでくる。


「近接が得意でヴァンパイアの再生力を活かして勝ちきるのが強みって本人からは聞いているな。本気で戦ってるところを見るのはこれが初めてだが。」


 未だにルイスが全力で戦わないといけない場面は訪れていない。だから、ルイスの強さを見る機会はこれまで無かった。


「そうですわね、認識はそれで正しいです。ただ、その意味をちゃんとは理解してないようですが。」


 シトリーは映像を見ながら淡々と語る。


「ワタシは召喚されてすぐに彼女を見つけて安心したわよ。彼女がいれば前衛同士の戦いで突破されることは無い。ワタシやメアみたいな後衛特化にとっては最高の前衛ね。」


 横でメアも頷いている。


「そんなにか。それでも突破される可能性は否定できないんじゃ無いのか?」

「彼女が普通のヴァンパイアならあったらね。でも、彼女はヴァンパイアの中でも最強の真祖。Sランクの中でも最強クラスの近接能力を持つヴァンパイアの中でさらに最強の存在。つまり、最もとんでもない魔法が飛び交うSランク帯を全く魔法を使わずにフィジカル特化で渡り合える近接特化のSランクに属しながらやられても蘇るというチートのようなおまけがついたのが真祖って存在なの。」


 ルイスはノルンが立ち上がるのを待つ余裕を見せながら蹂躙していく。


「まあ、今回の戦いで言い直すならノルンさんが未来視などの刻の能力でSランクになってるのにルイスさんは近接戦闘能力だけで同じ土俵にいるのよ。」


 つまり身体能力だけでSランクに匹敵するのがルイスという存在ということか。


「ノルンさんは未来視を使ってルイスさんの攻撃に対処する。ルイスさんがそれに合わせて攻撃を変える。ノルンさんが新たに未来視で攻撃を対処する。ルイスさんがさらに攻撃を変える。これを繰り返した結果ノルンさんが対処できなくなって攻撃を受けているのが現状ね。」


 ノルンがどんなに未来を変えても逃れる手段が無いってことか。


「あれだけ大口叩いてたんだからこんなもんじゃ終わらないわよね。」


 まだまだ元気なルイスがすでにボロボロなノルンに話しかける。


「当然なの。」


 ルイスが突っ込んですぐにノルンが瞬間移動したように移動し、初めてルイスを倒す。しかし、ルイスはヴァンパイアの再生力ですぐさま復帰。


「ついに時間停止の能力を使いましたね。」


 どんなに動きが速くて対処できなくても時間を止めてしまえば関係無い。これがノルンの最大の強みであり、彼女が最強を自負するだけの理由なわけだが。


「時間停止の能力は魔力消費が極端に大きい魔法ね。一度発動する毎にルイスさんの回復能力を遥かに凌駕する莫大な魔力を持ってかれる。一方でルイスさんの回復は時間停止を解除しなければ発動しないわ。」


 ルイス曰くヴァンパイアの再生能力は例え塵一つ残さないほどの攻撃をしようと周囲に散った魔力のおかげで復活するのだそうだ。なので大きな攻撃をするのはあまり意味が無く、回数を倒す方が重要なんだとか。


「つまり、ルイスさんの再生回数以上に時間停止の能力を使わないといけないわけですがそれだけの魔力量を持つ生物など存在しないわ。そもそもノルンさんの魔力容量は後衛特化のワタシやメアと同じくSランクの中でもトップクラスだから時間停止を最大値使える存在ではあるのですが。」


 これが先ほどメアが言っていた相性が悪いという理由か。


「あと二回が限界。」


 メアが冷静に指摘する。他に打てる手が無い以上そうなると遥かに魔力が足りない計算になる。


「まあこのダンジョンで圧倒的な経験値を手に入れたルイスさんをタイマンで3回も倒せてる時点でノルンさんも十分とんでもない存在ですけどね。他に一度でも彼女を倒せる存在なんていますかね?」

「いない。」


 2度目の時間停止を使ったノルンを見ながらシトリーの疑問にメアが即答する。


「シトリーは目さえ合わせれば勝てるんじゃ無いのか?」


 シトリーなら可能性があると思っていたのだが。


「無理ね。魔法が発動する前にこちらの存在が無くなってるかと。」


 シトリーがそう断言しているのだから無理なのだろう。



「まだやる?」


その後、時間停止を使い切ったノルンを魔力も体力も使い尽くし立てなくなったノルンの上に座り込みながら余裕のルイスが問う。


「ノルンの負けでいいの。だから、そこをどいて欲しいの。」


 苦しそうにノルンが負けを認める。


「違うわよ。どいてくださいお願いしますご主人様、でしょ?」


 ルイスがノルンをぐりぐりいじめながら言う。


「どいてくださいなの。ご、ご主人様。」


 こうしてルイスとノルンの間で明確に格付けがなされたのであった。

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