第30話 ヴァルの成果

開幕節成績

氷●vs創○

鋼●vs地○

獣●vs海○

空●vs炎○

邪●vs聖○


 俺たち以外は昨シーズンの順位が上位だったチームが順当に勝った初戦を終えた翌日、ついにフェニックスのタマゴが孵化した。ルイスは産まれたCランクのファイアーバードのうちからメスの個体を選んで速攻でフレアイーグルに進化させ、眷属化しているヴァルを工房から引っ張り出しもう1段階進化させる。


「ホーリーフレアイーグルだな。これならトレードに出せると。」


 ルイスが横で頷く。最初のフェニックスもめちゃくちゃ豪運でフェニックスになった可能性も否定できないがそれよりは合成に効果があると考えた方が可能性が高いってことで落ち着いた。


「あ、でも1体だけ残してもう1つ実験していいかしら?」


 ルイスが何か思いついたように言う。


「別に良いけど何するんだ?」

「眷属化したらフェニックスになったりしないかなと思って。」


 なるほど。不死の属性を与えたらフェニックスになるのなら俺たちは任意でフェニックスを生み出せることになる。面白そうだったのでもう1体いたメスの個体が実験用に決まった。




「それでヴァル、せっかく出てきたのなら成果の報告をして欲しいんだけど。」


 久しぶりに姿を見せたヴァルが何やら熱心に研究してるらしいことは聞いていたので本人の口から説明を求める。


「ああ、魔剣の製造に成功したよ。素材になる魔鉱石は取り切れないほど取れるようになったし、ルイスたちに護身用に持たせておけば役に立つと思うよ。」


 ヴァルはさらっと言ったが魔剣とは魔法を使わなくても魔剣に魔力を通せば特定の魔法の力が使える剣のことだ。魔法を使わないルイスや支援系で戦闘が得意で無いメアやシトリーには大きな手助けになる。時間操作に魔力を持っていかれるノルンとの相性はよくわからないが。


「すごいじゃないか。量産できるようならすぐに製造して欲しいんだけど。」


 魔剣は装備した者のランクを1つあげると言われるほどのアイテムだ。ゴブリンですら魔剣を持ってるだけで大きな脅威になる。


「ああ、それも良いんだけどしばらく見ない間にSランクが増えたみたいだね。どうやら魔法使いがいるみたいだしまずはそっちのステッキからの方が良いと思うよ。」


 今日出てきて初めて新たなSランクを見たらしい。


「そっちも作れるのか。よろしく頼む。」

「ああ、ボクができるのは他の魔物の強化だけだからね。Sランクにふさわしいすごい装備を作るよ。魔硝石も腐るほど増えたし良い物ができると思うよ。」


 ヴァルはそう答えるとすぐにメアたちの方に向かっていった。どうやら本人たちにどんな性能にしたいかの意見を聞いているようだ。序盤の方に設置したダンジョン内の魔結晶、魔硝石がどんどん魔水晶になり、Sランクの魔物が増えたこともあり、ついにはダンジョン内でできた魔石が魔水晶まで成長したケースまで確認できた。ヴァルが管理していた魔硝石もあっという間に魔水晶に進化し、採掘場に魔結晶もいくつも育てたから採掘場をもう1部屋欲しいと要望が前にあったので部屋を増やしてあげたのでそろそろ成果が欲しいところだったがようやく成果の報告が聞けた。要望がルイス経由なのはどうかと思うのだが。


「ああ、それとヴァル。頼んでた研究はどうにかなりそう?」


 ルイスが思い出したようにヴァルの方に向かっていく。


「忘れてた。それはとうの昔に終わったよ。魔結晶が1つダメになったけど十分な成果だと思うよ。」


 魔結晶をダメにしたってルイスは何の研究を依頼したのか。


「というかそっちが最大の成果だね。これはちゃんと自分で報告しなくちゃ。」


 ヴァルがメアたちとの会話を中断して何故か工房に引っ込んだ。と思ったらすぐに出てきて何か持ってこちらに戻ってくる。


「マスター、エリクサーの調合に成功した。素材に魔結晶を必要とするからいくつも作れるようなものじゃないけどとりあえず2つ納めとくよ。」


 とんでもない発言が聞こえた気がする。


「エリクサーってあの体も魔力も一瞬で完全回復するっていうあのエリクサーで良いんだよな?」

「ああ、それで間違いない。こないだルイスに相談されて作ったんだった。おかげで1ヶ月くらい研究に没頭したよ。終わってからすぐに報告に行くつもりだったんだけどさすがに疲れて眠ってしまってね。起きたら他の成果も一緒に報告したくなって魔剣の製造ラインを作り始めたら忘れてたよ。それでマスター、お願いがあるんだけど魔剣の製造ラインのために1部屋くれない?」


 そもそも俺はエリクサーの研究の話も聞かされて無いのだが。まあ、とりあえず大きな成果とできたら魅力的な装置の開発のためにヴァルに1部屋あげることになった。


「それでルイス、どういうこと?」

「できるかわからなかったから秘密にしてたのよ。どれだけかかるかわからなかったし。あんたを驚かせたくてね。」


 まあ、ダンジョンの管理は一任してるので別に良いのだがかなり驚いた。


「クイーンドライアドが管理する森にあるとされる神樹の葉とアルティメットコピースライムから取れる生命の雫、それからダンジョンの奥深くにあるとされる魔結晶からできるって伝承はあったんだけどまさかこんなあっさりできてるとは思わなかったのよね。」


クイーンドライアドを中心とする植物系の魔物たちに与えている階層には彼女たちが育てている植物で森ができている。その奥で彼女たちが大事に守っているのが神樹。その葉はなんでもどんな傷や病も治してしまうのだとか。そしてアルティメットまで進化したコピースライムのみが持つどんな魔力も完全に模倣するという生命の雫。ルイスがアルティメットコピースライムの育成を急いだのには1体からは少量しか入手できないこの貴重なアイテムを安定して入手するという目的もあったのかもしれない。そして、ダンジョンの膨大な魔力を蓄えた魔結晶以上の鉱石がエリクサーの原料だそうだ。


「これ、ルイスが持ってる限り最強のアイテムだよね?」


 魔力を使って回復するヴァンパイア、何回も倒されて手負いになってもそれを全て無効化する最強のアイテム。


「そうね。ノルンとあたしが一番相性はいいわね。」


 もちろん、時間を操作するノルンもやっとの思いで傷を与えても魔力まで回復してしまうと考えれば相性が良い。どちらにしろこのダンジョンはとんでもないアイテムを手に入れたのだった。

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