シーズン2

第29話 新戦略

 こうして迎えた2シーズン目の開幕日。俺たちの初戦の相手は氷のダンジョンになった。ちなみに残念ながらフェニックスのタマゴの孵化は間に合わなかった。炎の魔物がたくさんいると属性有利が取れて楽勝だったのだがそこまでうまくはいかないようだ。とはいえ、炎の魔物の中でもトップクラスの強さを誇るAランクのフェニックスを新たに戦力に加えたため有利であることには変わりないのだが。


「ルイス、任せたぞ。」


 今回は本気で優勝を目指すシーズンになる。最初のシーズンに育成に専念したことで大幅な戦力アップに成功したので心配はいらないとは思いつつも俺ができることは何も無い以上やはり不安にはなるものだ。


「圧勝して見せるわ。」


 ルイスは自信満々にフィールドに向かっていった。




 戦いが開始してまずは小手調べ。ゴブリンジェネラルを主軸にしたゴブリン部隊がちょっかいをかけつつも徐々に自陣奥に引いていき敵の攻撃部隊を自陣の深いところまで誘い込む作戦だ。このゴブリン部隊、Dランクのゴブリンはおらず全てがCランク以上の上級ゴブリンたちで構成されたエリート部隊だ。というか戦力が発展しすぎて既に30体の枠が全てCランク以上で埋まるようになっている。


「やっぱり、Cランクの魔物でチクチクちょっかいかけられたら主戦力を投入していくしか無いよな。」


 相手はまだそれほど戦力が整っているわけでは無いため戦力の多くがDランク。Cランクの魔物が複数出てくるような状態はBランクを回して対応するしか無い。そして、Bランクが来たら撤退を繰り返す。Dランクの魔物が少しずつ減っていく一方的に戦力が削られる展開は致命的では無いとはいえ相手からしたら避けたい。となると主力部隊を出して押し込みに行くしか無い。


「事前の打ち合わせ通り、敵の主力部隊が出てきたらちょっかいをかける相手をそっちに変更しながら撤退。ここまでは予定通りだな。」


 2階層目は罠を張り巡らせ、足止めしつつ戦力を完全に引かせる。敵もここまで来てしまっては引き返さずに攻め込むしか無い。奇襲を警戒して慎重に索敵をしながら罠に対応するとなると進軍はゆっくりしたものにならざるを得ない。


「そろそろだな。」


 敵が2階層の半分付近まで到達したタイミングで彼らは突然意識を失うことになる。


「決まったな。」


 やはりメアのドリームワールドは強力な魔法だ。彼女がいるのは3階層、敵が眠った部屋のちょうど真上に位置する部屋から放たれた魔法は侵入者を完全に無力化していた。敵の索敵が絶対に及ばない安全地帯から一方的に敵を無力化することができるのがこの魔法最大の強みだ。


「このまま、無抵抗の相手を倒しても良いんだけどこっちにはシトリーがいるからそれ以上のことができる。」




「おかしい。」


 氷のマスターは平坦な声でつぶやく。味方の攻撃部隊の映像と連絡が途絶えて1時間。何の予兆も無かったが映像が途切れたということは攻撃部隊はやられたのだと思っていた。マスターが映像を共有できるのは意識のある味方だけなので少なくとも意識を失うような何かが起こったことが予想できた。


「なんでうちの子たちが攻めてきてるの?」


 感情が表に出ない少女はそれでも動揺を隠せずにいた。Aランクを含む主戦力の半分以上を投入した攻撃部隊はいくらSランクを自陣に残したとはいえ自陣の防衛ラインを壊すのに十分な戦力を誇っていた。それでもSランクを主軸にした防衛部隊は自軍同士の戦いになんとか勝ち戦力を残りわずかまでに減らしつつもギリギリ踏みとどまった。


「でも、ここまで。」


 なんとか踏みとどまったとはいえ、戦ったのは味方であり、敵は全く戦力を減らしていない。手負いのSランクとわずかな戦力でBランク以下で構成されるあのゴブリン部隊ですら凌げるかすら怪しい。相手はまだドラフトで取った新戦力すら姿を見せていないし、どうやったかはわからないが自分の魔物を寝返らせた魔物は少なくとも敵陣にいる。大勢は決まっていた。


「あれはフェニックス?まさかまだこんな隠し球があるなんて。」


 再び攻めてきたゴブリン部隊と一緒に現れたフェニックスが完全なダメ押しとなった。氷の魔物ではSランクですら単体では対応が困難なフェニックスが壊滅状態のところに現れては絶望しかない。抵抗すら許されず勝負が決したのだった。




「やっぱりこの作戦が決まるとかなり楽に勝てるな。」


 発動に時間がかかったり興奮状態だと効かないなどデメリットもあるドリームワールドだがこうやって不意打ちで使う分にはSランクすら眠らせられる驚異的な猛威を振るう魔法と化す。これにシトリーの洗脳魔法を組み合わせることで敵戦力を敵戦力で削ることができるようになった。そして、簡単には攻めきれないと思わせれば思わせるほど敵は攻めるのに戦力を投入せざるを得ない。つまり、カウンターの威力が上がるのだ。


「今シーズンはこれでだいぶ勝てそうだな。」


 ゴブリン部隊で戦力を見せつけることで敵に長期戦は難しいと思わせ短期決戦で決めに来たところにカウンターを仕掛ける。この作戦は割と早くから決まっており、ルイスと話し合い、ゴブリン部隊の練度向上にも取り組んだ。その影響かはわからないがゴブリンたちの成長が早くゴブリンジェネラルが増えてきて嬉しい悲鳴が聞こえるのはまた別の話。

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