第28話 カード合成の謎

「さて、炎のカードもゲットしたし実験を始めようか。」


 3つのダンジョンによるトレードが成立した翌日、俺たちはある仮説の検証をしようとしていた。


「合成したカードが実は全ての属性を持っているってやつね。」


 合成について改めて調べたが書物には『合成されたカードには合成に使ったカードの中から属性が1つ選ばれ表示される』としか書いておらず全ての属性を持つともランダムでしか持たないとも受け取れる書き方しかされてなかった。


「内容次第で今後の戦略も変わるかもしれないから早く検証しときたかったんだ。」


 仮説が正しければ召喚の選択肢を狭めることも広げることもできるため、特定の魔物を召喚したい場合に役に立つ。


「それはわかったけどなんで炎のカードが必要だったわけ?」

「召喚した魔物はどうせ育てるんだし炎なら子供作っても絶対腐らないと思ったから。」


 炎というのは魔法の属性として純粋に破壊力があり戦闘に優れた属性で有り、ダンジョン間での相性バランスも相まって絶対に需要が無くなることがないと考えたのだ。炎の魔物が腐るとは思えなかった。


「それで合成する属性はどうするの?」

「今回は複数持ってるカードの中から空、獣、邪を使う。」


 目的の魔物がいるのでそれに合わせて限定してみた。もちろんこれでも完全に限定できたわけでは無いが。


「何を狙うつもり?」

「レッドワイバーン。」


 進化するとレッドドラゴンになる超大物だ。そもそもドラゴンは龍のカードが刻の次で2巡目で消えるほど人気だ。ワイバーンですら価値は高いので量産に成功すればトレードがかなり有利になる。


「大物ね。カードの選択も納得がいったわ。さっそく始めましょう。」


 空と獣と炎で選択肢を大きく狭め大本命のホーリーフレアイーグルに進化するフレアイーグルを弾くために邪を混ぜる。俺の意図をルイスもすぐに読み取り、合成に入る。


「とりあえず空のカードができたな。」


 3つを合成してできた空のカードと炎カードを使ってBランクの魔物を召喚する。


「フレアイーグルじゃない。」


 ルイスがつぶやき俺は膝から崩れ落ちる。


「やっぱりランダムだってことか。」


 期待して気合いを入れていろいろ考えた結果の選択だった分精神的ダメージも大きい。


「まだわからないわよ。少し待ってなさい。」


 少し考えていたルイスはそうつぶやくとフレアイーグルを連れてダンジョンに向かいフレアイーグルに自分を攻撃させる。


「どういうことだ?」


 ルイスを火だるまにして倒したフレアイーグルはホーリーフレアイーグルとは別の魔物に進化していた。


「やっぱりそうだったみたいね。」


 戻ってきたルイスは満足げにつぶやく。


「どういうことだ?」


 いまだに状況が飲み込めてない俺にルイスが説明を始める。


「都市伝説レベルの話だけどフレアイーグルってホーリーフレアイーグルではなく別の魔物に進化する異常個体がいるのよ。名前だけは聞いたことがあると思うけどあの子はフェニックスって魔物よ。」


 フェニックス、不死なる炎の鳥か。伝承に伝わる魔物だがまさかフレアイーグルから進化する魔物だったとは。元々フレアイーグルという魔物はBランクの中では割とメジャーな方だ。そこからホーリーフレアイーグルまで進化するのはほんの一握りほどしかいないが一定数は到達するため進化先としてもホーリーフレアイーグルはメジャーでまさか他の進化先が実在するとは思ってみなかった。


「噂があったのよ。フェニックスはフレアイーグルの異常個体なんじゃないかってね。フェニックスに進化する異常個体ならあたしと同じ不死属性、つまり邪の属性の条件も満たすと思ったのよ。」


 死という掟から外れた魔物をその名の通りアンデッドと呼ぶ。つまりフェニックスもそこに分類されるってことらしい。


「あたしも半信半疑だったわよ。フェニックスは存在自体がSランクと並ぶかそれ以上の伝説の存在。それが邪の属性を持ってるかなんて知りようがないもの。ただ、あんたの考えが間違ってると思わなかったから試してみただけよ。あれだけウキウキで準備して間違いでしたなんて悲しすぎるでしょ。」


 俺がショックを受けてるのを見たら体が動いたってことか。


「ありがとな。」

「別に、あたしが納得いかなかったからやっただけよ。」


 意外とルイスは優しい。ダンジョンでの面倒見も良いから安心して任せられるしみんなの信用も厚い。


「でも、今月だけで2回も死んでるけど開幕までに間に合うのか?」


 前に1回の死亡毎に回復に1ヶ月近くかかると言っていたので開幕を万全で迎えられなくなる計算なのだが。


「たぶんギリギリになるけど間に合うと思うわ。あんたのおかげで魔水晶も増えたしSランクの魔物もいっぱいいるからうちのダンジョンの魔力濃度ってかなりすごいことになってるのよ。その分あたしが体内に取り込める魔力量も増えてるから回復速度も上がってるのよ。それにあたしが少し万全じゃないからって負けないわよこのダンジョンは。」


 どうやら心配は無用なようだ。


「むしろ心配なのはフェニックスの量産の方じゃ無いの?そもそもフェニックスが生まれる確率は10億匹に1匹って言われてるからそんな魔物が子供を作った実例なんて無いはず。もし、ここからフェニックスしか生まれないようならトレードなんてしないでよ。」


 確かに相手にフェニックスが生まれるようならトレードなんてしたら後で厄介になるに違いない。


「とりあえず子供作るからまずは検証待ちね。」


 この日のためにアルティメットコピースライムをもう1体作ってくれたりと頑張ってくれたルイスには感謝しか無い。


「まさかもう1体Aランク作ることになるとはな。いろいろ迷惑かけて悪いな。」


 検証のためにはもう1体フレアイーグルを進化させなければいけない。ルイスはすでにそのための準備に取りかかり始めた。


「迷惑?むしろこんな楽しみな仕事そうそう無いわよ。こんな経験、何年生きようがここでしかできないわ。」


 これは不死身なアンデッドにしかできない最大限の褒め言葉だな。

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