第27話 トレード案
シーズンオフの間に戦力の補強に入りたいのは海のダンジョンも同じだった。前シーズンに海上を渡ることで海の魔物たちを無効化され、その対策に追われたので足場を作る魔物への対策、特に海を凍らせる氷属性の魔物の対策は海のダンジョンにとって早急な補強ポイントだった。
「炎のダンジョンはダメか。」
こちらはBランクで良かったのだが炎のダンジョンの要求はAランクのカードだった。どうやらどこかのAランクのカードをトレードで入手したらしく保有生成コストがちょうど9000だったためB3枚とA1枚のトレードなら応じると言われたがこちらも手持ちの生成コストはちょうど10000。邪のBランクのカードを1枚持っているが海と炎はどう考えても相性は悪いしダブると追加でトレードしないと使えないためトレード先も探さないといけない。生成コストを1000損してまでそこまでするのかいう疑問もあるし、生成コストをここで使い切るのは避けたい。ドライアドがすでに7000DPと高値になってきているので例えいくらでも出して取ると決めたとはいえDPと生成コスト両方とも厳しくなる状況はあまり良いとは思えなかった。
「炎のカードを他に持ってるところなんて無いわよね。」
だいたいのダンジョンはカードをゲットしたら速攻で使っている。残っているとしたらドラフトで入手したけど生成コストが足りずに使えてないAランクのカードだけだ。
「マスター、創のダンジョンなら炎のカードも持ってるかもよ。」
主人のため息と共に出た独り言に従者が反応した。
「レヴィ、どういうこと?」
「炎のダンジョンってドラフト指名権トレードしてたでしょ。それで炎のダンジョンには割と序盤からAランクが2体いたっぽいしおそらくAのカードと指名権をトレードしたと思うんだ。」
第4節の時点で炎のダンジョンにAランクが2体いることは地のマスターから聞いたので間違いない。指名権もAランクのカードである以上Aランクのカード同士のトレードだったことは想像に難くない。
「それでね、創のダンジョンなら即戦力のAランクのカードと将来のAランクのカードなら追加で何か要求してると思うんだよ。」
確かにそれならBランクのカードを要求しててもおかしくないとようやく従者の考えを理解する。
「ありがとレヴィ。さっそく創のダンジョンに連絡してみるわ。」
「あんた、炎のカード持ってない?」
海のダンジョンから通話がかかってきて、何かと思ったらいきなりそんなことを聞かれた。せっかく海の対策でフェンリルを入手したのだが海のダンジョンも弱点は潰しておきたいのだろう。
「そういうのは炎のダンジョンに言ってくれ。」
動揺を隠しつつ、とりあえずそう返す。
「言ったわよ。Aのカード要求されてB3枚とか足下見られたわよ。応じたくないからあんたに連絡したのよ。」
プレーオフを見たならば海のダンジョンが炎のカードを要求した時点で目的は明確。その流れは自然だろう。それより炎のダンジョンはAランクのカードを手に入れたのか。また、将来の指名権を手放してそうだな。
「損しないトレードならいいのか?」
応じられないではなく応じたくないと言った以上、このまま何もしなければトレードに応じることも考えているのだろう。そして、おそらく最終的には応じることになるだろう。それなら俺が関わらないのは俺にとっておいしくない。
「ええ、だからあんたが炎のカードを持っているか聞いているんだけど。」
海のマスターは不思議そうに聞いてくる。
「あー、俺から出るわけじゃ無いんだけどちょっと待ってくれ。」
俺は通話を切ってルイスを呼び出した。
「あんたのところから出ないってどういうことよ。」
ルイスといろいろ確認を終えた俺が再び海のマスターに連絡したところ不満そうにこう言われた。
「ちゃんと説明するからちょっと待ってくれ。まず、炎のカードは炎のダンジョンからもらってくれ。Aランクのカードを要求してるなら渡すしか無いだろう。」
「それが嫌だって言ってるんじゃない。」
海のマスターは不満そうに言う。
「まあ、最後まで聞いてくれ。それで得た炎のカード2枚を今度はこっちに送って欲しい。こっちはゴブリンジェネラルとゴブリンセイバー2体にゴブリン5体を出す。これならそっちも損しないだろ?」
炎のカードは氷のダンジョンやドライアドやトレントのような魔物への回答になるカードだ。ドライアドもトレントも市場に出したし、地のダンジョンにも存在しているので需要のあるカードでもあるのでここで少し損をしても十分取り返せると踏んだ。そもそもゴブリン系統は元々コスト0のような物だし損してるとも言えないのだが。そしてダンジョンにSランクが増えたことで育成のスピードが上がってすでにゴブリンジェネラルですらこないだあっという間に3体目が誕生した。おそらくシーズン開始までにもう1体は誕生するだろうという見立てからルイスからもトレードにゴーサインが出た。
「なるほどね、それならうちも損が出ないと。というかゴブリンジェネラルってあんたのとこどれだけ育成進んでるのよ。」
海のマスターは俺の案に理解を示しつつも1日待ってくれと回答を保留した。
「レヴィ、どう思う?」
創のダンジョンとの通話を終えた海のマスターは従者に意見を求める。
「創のダンジョンとトレードするにしてもこちらが不利になるトレードになることは明白だったし、損するどころかちょっとプラスになるなら乗るしか無いと思うよ。」
従者は率直な意見を述べる。
「ただ、向こうは炎のカードでそれ以上の利益が出せる自信があるって考えると悔しいかな。」
レヴィのその感想は海のマスターも同じである。
「悔しいけどダンジョンマスターとしての腕は向こうの方が上、それは認めざるを得ないわ。あいつは最初から下級の魔物に目をつけてたしまさかゴブリンがこんなに増えるとは思ってなかったし。」
最初はたった3匹だったゴブリンはどんどん数を増やしていきゴブリン部隊は海のダンジョンでも重要な奇襲部隊になっている。このダンジョンが地上に姿を現した後もゴブリンたちが活躍するのは想像に難くない。うちのスライムや地のダンジョンのグロウウィードも彼らのところではすでに戦力となっている。最初のシーズンで優勝した自分が劣っていると感じるほど彼は優秀なのだ。
「ああ、それとゴブリンの話で思い出したけどゴブリンはメスを送ってもらわないと。」
翌日、ゴブリンの件だけ確認を取って交渉がまとまった。このトレードがこのオフで魔物が移動した唯一のトレードになった。
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