第23話 召喚開始
指名したカードが手元に届いたのはドラフトの翌日だった。
「さて、これから新たな魔物を召喚して行くわけだけどヴァルは来ないのか?」
基本的に工房から出てこないヴァルは今日も不参加らしい。
「こないだ採掘場から魔石が出るようになったって報告したでしょ。あいつはそれから新しい装備の試作に夢中でしばらく工房から出てこないわ。」
どうやらルイスは呼びには行ってくれたらしいがまるで相手にされなかったらしい。一度夢中になるとしばらく他のことは眼中に無くなるようなので待っていても仕方ないだろう。
「わかった。今度、成果について報告しに来るように伝えといてくれ。」
俺はダンジョンには入れないのでルイスに伝言をお願いした。気を取り直して召喚していくことにする。
「3体同時に召喚すると不味い?」
一応、一斉召喚も可能なのだがせっかくのSランクだし1体ずつ呼ぶべきかルイスに尋ねる。
「個々の特徴も把握したいし順番で頼むわ。あと、召喚順で先輩後輩で揉める可能性があるから指名順上位からお願いするわ。」
Sランクはプライドが高いやつも多いからとルイスは説明する。まあ、ルイスもプライドは高い方なので召喚される立場になれば揉める自信があるのだろう。ということで『刻』のカードから順番に召喚していくことになった。
「初めまして、マスター。ノルンを召喚できるなんてマスターは幸運なの。ノルンがあなたを最強のマスターにしてあげるなの。」
いきなりめちゃくちゃ傲慢そうなのが来たな。見た目はルイスと同年代くらいか少し幼いくらいだな。
「あんた、あたしのこと見えてないの?このダンジョン最初のSランクはあたしよ。あんたはあたしのサポート役。わかった?」
明らかに無視されていたルイスが半ギレでノルンに突っかかる。
「ああ、先輩いたのなの。これまでエースの仕事ご苦労様。これからはノルンが代わるから隠居してていいの。」
ノルンはいきなりルイスを煽りだした。
「あんたねえ。あたしがこのダンジョンのリーダーなのはマスターが決めたことよ。あんたはあたしの部下として召喚されたんだからあたしに従うこと。わかった?」
ルイスは完全にぶちギレているけど先輩としての意地でなんとか殴りかかるのをこらえてる感じか。
「つまりマスターにノルンが上だと認めさせればいいの?マスター、そういうことだからノルンをリーダーに任命してなの。」
さも当然のようにノルンは言うが。
「いや、問題しか無いだろ。俺、君の能力聞いてないし。おまえがルイスより信用できる要素今のところ1つもないんだが。というかリーダー変える必要無いだろ。」
少ししゃべってるのを聞いた感じこの子はヴァルと同じ気まぐれな自由人タイプ。自分さえ良ければ周りは気にしないタイプに見えるのでそんなやつにリーダーなんて絶対に任せられない。
「ああ、自己紹介がまだだったの。ノルンは刻の王ノルンなの。能力は未来を見る力と時を止める力と相手の過去を見る力なの。すごい頑張れば過去に戻って世界をやり直すこともできるわ。代償が大きすぎるからよっぽどのことが無ければやらないの。ってなわけで、ノルンは最強なの。だから、ノルンがリーダーでいいよね?」
本人が言うとおり未来視や時間停止、過去改変と最強クラスの能力を持っていることはわかった。しかし、これだけ強力な能力の数々、ルイスがそうであったように何かしらのデメリットもあるはずだ。
「まず、リーダー云々の話は置いといてノルンの能力を話をしようか。未来視の能力から聞くけどそれは任意の未来を見れる能力なのか危機を知れるような能力なのかどっちだ?」
未来視には2つの能力がある。任意型と予知型だ。任意型は魔力消費が重い代わりに発動タイミングが任意のタイプだ。予知型は将来の危機を断片的に知ることができるタイプになる。任意型が最大の力を発揮するのは戦闘中だ。次の相手の行動がわかるため対処がしやすい。その反面、先の未来を見通す力には劣る。いつあるかわからない危機を探そうとすれば大量の魔力を消費する上に危機が発見できるかはわからない。予知型は自分たちが窮地に陥ることが確実にわかるが危機に陥った状況を断片的に知れるだけなのでどうしてその状況に陥ったのか知ることはできず、戦闘時では能力が無いのと変わらない。
「任意で発動するタイプなの。先の未来を見ようとすればするほど魔力消費は重くなるの。」
戦うならこちらの方が強いだろう。
「次は時間停止の能力だ。どれくらいの長さ時間を止められる?動ける対象と人数は?」
「奇妙なことを聞くの。相手を倒すだけの時間止めてればいいと思うの。一応1分くらいは止めていられるはずなの。動けるのはわたしが認めた人だけなの。動ける人数を増やせば魔力消費が増えるからわたし一人で十分なの。」
発言の端々から自分一人での戦闘しか想定していないことがにじみ出ている。
「過去視の能力だけど発動条件は?」
「相手の目を見ることなの。そうすれば魔力消費量に応じてその相手の過去が見れるの。だけど、あんまり使うことは無いの。」
情報を入手するために有用な能力なのだがノルンにはその認識は無いらしい。
「最後に過去の改変能力だけどどれくらい遡れる?それと代償は何だ?」
「過去の改変じゃなくて世界のやり直しなの。」
俺の言葉をノルンが否定する。
「どう違うんだ?」
「勘違いしてる人が多いの。過去が変わればそれから起こる出来事は全て別の物になるの。だから、過去だけ変えて未来に戻るなんてことはできないの。」
少しでも世界が変わればそれ以降の世界は大きく変わる。やり直しか。過去に飛べば未来には戻れない。過去に戻って少しでも行動が変われば戻る未来が無くなるからか。
「それで遡れる期間は能力を含めてわたしが見た過去だけなの。遡る対象はわたしが決めれるけどその時に存在しない存在はその場には送れないの。」
なるほど。例えばノルンが俺やルイスの過去を見て、俺たちが出会った頃に遡ることは可能だがその場合、遡れる対象は俺とルイスでありノルンは遡れないってことか。だから、やり直しか。
「代償は魔力容量なの。過去に誰か送ったらその分の魔力は未来過去含めて永遠に失われるの。」
つまり、未来でその力を使えばそれがわかるということか。何度もやり直せばいずれ魔力が無くなり過去に遡ることもできなくなると。ただでさえ膨大な魔力が必要らしいのでそれが戻らないとなると確かによほどのことが無い限り使えないだろう。
「なるほどね。ルイス、たぶんうまく使えばとんでもない戦力だからよろしく頼む。」
「ええ、確かに強力な戦力ね。性格は難有りだけど。」
俺とルイスが頷き合う。
「ちょっと待つの。なんでノルンがリーダーじゃ無いの?ノルンの強さはわかったはずなの。そこのヴァンパイアよりノルンの方が強力なの。」
ノルンが不満そうに言うが
「ノルン、確かに君は強力な力を持っている。力の使い方さえ間違わなければ誰も君に勝つことはできないかもしれない。でも、君自身はまだ未熟だ。少なくともルイスなら君の力を君以上に発揮してくれるはずだ。だから、リーダーは君には任せられない。」
俺はそこを譲る気は無かった。ルイスは自分の能力のメリットとデメリット、自分を活かすために何が必要かまで把握していた。リーダーとして戦場で指揮を取るにはこういう把握が必要不可欠だ。ノルンは未来が見える分、先を考えて道筋を立てる能力が不足してるのかもしれないが。
「まあ、すぐに納得しろとは言わないよ。でも、勘違いしないで欲しいのは君はもっと強くなる。俺もルイスもそれを全力でサポートするつもりだってこと。俺もルイスもノルンには期待してるんだよ。」
そう言われたノルンは渋々だが納得してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます