第22話 ドラフト結果と懸念

選択結果一覧


1. 『刻』 創

2. 『龍』 鋼

3. 『獄』 空

4. 『将』 邪

5. 『雷』 氷

6. 『水』 聖

7. 『翔』 獣

8. 『夢』 創

9. 『明』 地

10. 『堅』 海

11. 『魅』 創



 ドラフトが終了し、画面には最終的な選択結果が表示された。


「あんた、どうして『夢』を選択したの?」


 俺がルイスを信じると宣言したあとすぐに選んだのは『夢』のカードだった。


「前に言ってたじゃん。遠距離系の魔物が欲しいって。ルイスを主軸にするなら遠距離系の魔物を2体選びたいと思ってね。その代わり、前衛は任せることになるけど。」


 それはルイスと方針を決めたときの要望。ルイスを信用してるからこそルイスの活躍しやすい環境を作りたかった。その場合、ルイスの行動が制限されかねない『明』や役割が被りかねない『堅』は自然と候補から外れた。そして、残りの『夢』と『魅』から眠りに関する能力を持っていそうな『夢』の方が強力そうだという事前の判断から優先して『夢』から取った。


「もし、最後に『堅』が残ったらどうするつもりだったの?」


 最大の懸念は最後の2択で海のダンジョンが『魅』を選んだ場合だが。


「海のダンジョンはディーヴァに信頼を置いてそうだったから新たに補助系の魔物は取らないと思ってたよ。それに最悪また今回のドラフトに参加してない炎のダンジョンに売ればいいと思ってたし。」


 実は炎のダンジョンから今回のドラフト最下位指名権と来期の指名権のトレードの交渉は俺が8位指名を考えている間に来ていた。残ったカード次第で後で返答すると炎のダンジョンには伝えていた。やはり、ドラフト指名権を完全に失うのでは次のシーズンも厳しいと考えたようである。そうなるとこのまま毎年指名権を放出することになるのだが。


「あんた、それ早く言いなさいよ。」


 あたしの不安を返せとルイスに文句を言われたが炎のマスターが連絡をしてきたのは割と決断の直前だったので話す機会は無かったのだ。


「それはそうと次も『刻』みたいなカードがあるとしたら危険だな。」


 『刻』のようにどう見ても危険そうなカードが次回もあるとしたら取れるか他のダンジョンに取られるかで大きく変わる可能性もある。少なくとも敵に取られると厄介になるのは間違いないだろう。


「でも、それを恐れてるといつまで経っても優勝できないわよ。」


 1位指名権は最下位チームの特権だ。優勝を目指すならそこから遠ざかることになる。


「だから別のアプローチが必要だ。」




「何のようだ。」


 俺が通話の相手に選んだのは空のマスターだ。


「トレードの相談だよ。窮地に陥ってる君にね。」


空のダンジョンが魔物の成長の差で厳しい状況に立たされていることはわかっている。次のドラフト指名権1位の最有力候補は間違いなくここだろう。


「俺からこれ以上何を搾り取ろうって言うんだ。悪いが俺から出せる物は何も無いぞ。」


通話を切られそうになる。だいぶ精神的にやられてるっぽいな。


「こっちからは魔水晶が出せるが本当にいいのか?」

「何?おまえどれだけわかっている?」


窮地に陥ってる要因が魔水晶の差だと言うことをわかっていないと出ない俺の言葉に空のマスターは反応する。


「おそらく君は最初のDPを生成コストに変換してBランクの魔物を1体増やした。その対価は君の想像より遙かに重く、最初に魔水晶を設置したダンジョンとの差はどんどん広がり後半には全く勝てなくなった、ってところだと思ってたんだけど。君と戦ったときの魔物は明らかに弱かったからね。」


 俺は確信している情報を予想したように装って説明する。俺がこの情報を得たのは空のダンジョンと戦うよりずっと前だがここで他のダンジョンもその情報を知っていることを話すのは逆効果になりかねない。


「なるほど。それなら他のダンジョンにもある程度察されているわけか。それなら今さら見栄を張ったところで意味が無いな。確かにおまえの予想通り俺のダンジョンは魔水晶1個分、いや多いところだと既に2つ分差がついてることになる。確かにその差を埋めるために魔水晶を獲得するのは急務になる。」


 空のマスターは開き直るようにそう言うとそこで一度言葉を切る。


「それでおまえの狙いは何だ?おまえは自分に利益が無い交渉はしないやつだ。俺から何を望む?」


 前に空のダンジョンからかなり見返りを求めたのでそれを根に持ってるらしい。


「こっちの要望は1つ、次のドラフト1巡目指名権。」

「1巡目か。まるで2巡目があると確信してる言い方だな。」


 最下位のチームだけは形式的に2巡目の指名権がある。ドラフト指名権だけなら2巡目でも良くなってしまうため俺は1巡目と指定した。当然、空のダンジョンも理解している。


「例え魔水晶の数が同じになってもこれ以上差がつかなくなっただけ。1シーズン目についた差が縮まるわけじゃない。それを挽回する手立てが無ければ次のシーズンの最下位は堅い。当然の結論だろう?」


 魔水晶が入手できても既に広がった差は縮まらないのだ。


「そして、俺ほど育成に成功したダンジョンはおそらく他に無い。つまり、魔水晶をトレードに出せるダンジョンは他に無い。ドラフトの指名権を要求するのに十分な理由だと思わないか?」


 これ以上の差がつくなら空のダンジョンが巻き返すのは容易ではなくなってしまう。このままこのトレードをせずにシーズンを戦っても全敗の最下位はほぼ確実。育成能力の差が広がればAの魔物1体分以上のディスアドバンテージを負うことになる。それではさらに次のシーズンも最下位もほぼ確定だ。


「今シーズンは前シーズンのおまえのように売り手に回って戦力を蓄えた方が賢いか。そして、俺がAランクのカードを得るためにはおまえの企み通り最下位を取るしか無いわけだな。」


 どうせ最下位なら再建に舵を切る。空のダンジョンも覚悟は決めたようだ。


「しかし、今回の『刻』のようなカードを目指すのなら俺がもう少し要求しても問題ないだろう?そうだな、ゴブリンセイバー1体とメスを4体以上含めたゴブリン10体と魔水晶。それでドラフト1巡目指名権とトレードでどうかな?」


 空のダンジョンが要求を上げてきた。これくらい呑めるだろということか。実際、今回俺が交換用に準備していた魔水晶は最下層の一個上の階層の魔結晶が成長して魔水晶化したものだ。同じ階層では既に魔硝石の魔結晶化に成功しており、最下層にはもう1つ間結晶から成長した魔水晶がある。今後のめども含めて十分に呑める内容ではあるのだ。少し悩んでから結論を出す。


「わかった、それでいい。」


 こうして俺は新たなドラフト指名権を手に入れた。

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