第18話 決勝と初代チャンピオン

 決勝のカードはどちらもAランクを召喚しなかったダンジョン同士の戦いになった。前回の対戦ではスノージャイアントで足場を作って水上を突破した地のダンジョンが勝っているがそれはシーズン序盤の話であり、そこからお互いに戦力を補強しているので同じ展開にはならないだろう。ついでに言えば両方とも俺がBランクをレンタルしてるダンジョンだ。


「俺に同じ要求をしてきたり、仲のいいマスター同士のはずだけどどうなるかな。」


 傾向で言えば、地のダンジョンはどっしり守って様子を見てから攻めるタイプ、海のダンジョンは序盤から攻めてSランクの対応を押しつけるタイプだ。カギは海のダンジョンの攻めの要であるディーヴァを早めに潰せるかだ。獣のダンジョンはそれに失敗し、ディーヴァの援護を受けたレヴィがSランク同士のつぶし合いを制する格好になった。地のSランクも回復が得意なタイプらしいので膠着状態になる可能性が高いが海がディーヴァを失うと一気に戦況が傾くのでここが最大の攻防だろう。


「前回の決め手になったスノージャイアントを海がどう対策するかも見物だけどな。」



 戦闘が開始されると予想通り、まずは海が攻める展開になる。とはいえ、海のDランクであるスライムは戦闘向けでは無いため、海のダンジョンの前線の魔物は地のダンジョンとトレードで手に入れたであろうグロウウィードとゴブリンだ。ディーヴァで索敵しながらゴブリンたちでエリアを取っていくことになる。


「地のダンジョンもエリアは取らせていく方針だな。」


 地のダンジョンも相手に索敵できるディーヴァとSランクのレヴィが序盤から出てくることがわかっているためどこかで罠を張って待ち伏せるという真似はしない。中途半端な戦力では自分たちが削られるだけで意味が無いとわかっているからだ。


「海の攻撃部隊が第2階層まで進んでから地のダンジョンも攻撃部隊投入か。ここまではたぶん前回と同じだな。」


 探知スキルが効かない隠し部屋を作ってそこに戦力を隠して入れ替わるように攻める。相手に乗り込ませてから攻めたいときによく使われる戦法だ。前回の地のダンジョンはこうしてスノージャイアントを敵陣に送り込み勝ったのだろう。これで両陣営が攻撃部隊を送りあったことになる。


「海のダンジョンは1回戦より攻撃を厚めに送ってきたな。それだけ、攻略は難しいって考えてるってことか。」


 キャノンダイルやオーガと海のダンジョンはより、突破を重視するような構成で攻撃部隊を組んできた。逆に地のダンジョンも攻撃部隊に氷のキツネを組み込んでおり、1回戦のように遠距離砲撃で攻め手を失う状況を吹雪で返す狙いが見える。海のダンジョンは暑くは無いのでキツネが1回戦のように攻撃してダウンのような状況にはならないだろう。

 まず最初に攻め始めたのは海のダンジョンだ。ディーヴァの強化を受けたキャノンダイルとレヴィが敵本陣を攻撃する。地のSランクが防御魔法で壁を作るが防ぎきれず破壊されてしまう。しかし、威力もそこまでで陣地に被害はほとんど出ず、それもドライアドの回復魔法ですぐに立て直す。それでも、海のダンジョンが距離を詰めるだけの時間は稼げており、ゴブリンセイバーをはじめとした前線部隊が一気に近づく。地の防衛部隊の前線はトレントが中心であり、海が攻撃にトレントを連れてきたのもあり、トレント対トレントという不毛な争いが始まる。しかもどちらも後方に回復できる魔物がいるためここの決着は期待できない。


「こうなると均衡を崩す存在が必要だな。」


 地のダンジョンには1回戦で見えたヘルハウンドらしき炎属性の魔物がいるはずだが水属性砲撃を受けてしまっては1発でやられてしまうため回復できずに戦力を失うことになってしまう。トレントに有利が取れても使うタイミングには注意しなければならない。これをいつ使うかが勝負の分かれ目だろう。


「地の攻撃側はどうかな。」


 しばらく均衡が続きそうな地の本陣からこれから攻防が始まる海の本陣に視点を移す。予想通りキツネの魔物の攻撃で視界を奪った地の攻撃部隊はスノージャイアントで水上を凍らせて進もうとする。ドライアドは防御魔法でダメージは防ぐが反対岸が見えずスノージャイアントを止めれない。それを人型の魔物が水中から飛び出し槍で攻撃して防ごうとする。スノージャイアントは攻撃の準備を諦め、防御に回る。スノージャイアントと入れ替わるように護衛の魔物たちが槍の敵に攻撃する。今度は槍の魔物が撤退し水中に逃げる。ちょうどそのタイミングで水上の視界が晴れ氷のキツネがまた視界を塞ぐため吹雪を放つ。ドライアドは攻撃を防ぎスノージャイアントが足場を作ろうとして海から魔物が飛び出して諦める。同じ攻防が何度も続き、こちらもしばらく均衡が崩れそうに無い。


「先に動いたのは海か。」


 今までディーヴァを守るように警戒していたオーガをディーヴァを攻撃できる魔物がいない見た海陣営が護衛をスケルトンウォリアーに託し攻撃に出る。オーガのパワーはすさまじくトレントたちが吹き飛び一時的に前線が崩れる。地のダンジョンはレヴィの攻撃をSランクの魔物で受けつつ再生させていくので完全に崩れることは無いが少しずつ回復が遅れ始める。


「地も手を打たざるを得なくなったな。」


 俺の感じたとおり地も切り札を投入する。狙うのは守備の薄くなったディーヴァ。攻防の要であるここが崩せれば一気に有利になる。


「逆にここでやられたら負けかねないギャンブルだけどな。」


 ヘルハウンドは一気にディーヴァとの距離を詰める。護衛のスケルトンウォリアーが間に入るがヘルハウンドは持ち前のスピードを活かしてスケルトンウォリアーの横をすり抜ける。味方の援護に専念しているディーヴァはこの攻撃をかわせない。


「これで勝負ありか。」


 それでもこのタイミングを密かに狙ってる魔物が1体残っていた。ヘルハウンドがディーヴァに向かって飛び上がった瞬間を狙った砲撃。空中に浮いていては回避のしようが無いその瞬間を狙ったキャノンダイルの0距離射撃でヘルハウンドが落ちる。そこから地の防衛ラインは少しずつ戦線が崩壊し、崩れるのが時間の問題になった。



 防衛ラインが崩れ始めると敗北は時間の問題になる。残る勝ち筋はただ一つ。相手より先にダンジョンコアを砕くこと。ここから地のダンジョンの決死の攻撃が始まる。水中から槍の魔物が出てくるのはわかっているがスノージャイアントは構わず足場を作ろうとする。突っ込んできた槍の魔物を横からゴブリンが身を挺してスノージャイアントをかばいその隙に他の魔物たちが槍の魔物に襲いかかる。その瞬間、物凄い勢いで水中からスノージャイアントに向けて影が飛びかかってくる。スノージャイアントはよろめき足場を作っていた魔法はキャンセルされる。護衛の魔物たちが一瞬そちらに気を取られて動きが止まった瞬間に槍の魔物は水中に逃れ、水中から現れた触手は護衛のゴブリンを数体水中に引きずり込む。スノージャイアントを襲ったサメ型の魔物はすぐに水中に引っ込んでいく。キツネの魔物は今度は自分たちの周りを覆うように氷の霧を発生させる。これで長い距離の足場は作れない代わりに確実に足場を作る作戦だ。しかし、足場を作るためにスノージャイアントが立つ位置をおおよそ見当をつけていたドライアドが向こう岸がわかる状態なら魔法が打てる。攻撃を直撃はしなかったもののある程度ダメージを受けたスノージャイアントは足場作りを中止せざるを得ない。


「攻撃側も攻め手を失ったか。」


 スノージャイアントがもう少しで倒されてしまう状況では同じようには行かない。しかし、地のダンジョンも最後の力を振り絞る。今度はキツネの魔物が水上に向けて吹雪を放つ。スノージャイアントによって少しだけ作られた足場はその魔法で足場の面積を倍にする。水上にはいくつか氷が漂っている状態になるが足場にできるほどでは無い。


「これを続けられれば反対岸まで届くか?」


 できた足場は1メートルほど。反対岸までは10メートルはあり、先は長い。もう一度キツネが吹雪の魔法で視界を塞ぐ。槍とサメの魔物対策にゴブリンは2体が前に出てスノージャイアントは足場を作る。ワンテンポ遅れて水中から触手が飛んできてゴブリンをさらってからの槍の魔物とサメの同時攻撃。それを見てスノージャイアントは足場作りをやめる。これで足場は3メートル。攻撃が遅れた分だけ足場が作れた。今度はキツネが吹雪で足場を作り1メートル伸ばす。そして、もう一度視界を奪う攻撃。


「スノージャイアントじゃないと足場を作る効率が悪いか。」


 吹雪で伸ばせるのは先端のみで足場にすることを考えたらやはりスノージャイアントの力が必要だ。残りのゴブリンたちが決死に守ることでスノージャイアントは足場を7メートルまで伸ばす。しかし、そこまで進むとそこは完全に水上。足場を作るためにそこまで出てきてスノージャイアントは水中からの触手に捕まってしまい水中に引きずり込まれる。これで足場を作る手段がほとんど無くなった。キツネだけでは残り3メートルは難しい。しかし、キツネはもう一度視界を塞ぐ魔法を放つ。そして、護衛の最後の1体だったトレントが足場を猛ダッシュ足場を渡りきり水中にダイブする。そして、キツネの魔物が吹雪を撃ったままそれに続き、水中にダイブしたトレントを足場に反対岸にたどり着く。


「なんとかたどり着いたけどそこにいるのは視界を塞がれたせいでほとんど力を使っていないドライアドだぞ。」


 なんとか1対1に持ち込んだが岸を渡るために満身創痍になったキツネと力の有り余るドライアドではさすがに厳しかった。地の最後の猛攻は実らず海の優勝が決まった。

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