第3話 作戦


「あんた、何言ってるの?戦う前から諦めるなんてあんたにマスターとしてのプライドは無いわけ?」


 最初から勝負を投げると聞いてルイスは当然のように怒った。


「もちろん、1シーズン目から勝てるのがベストだけどルイスの能力はある程度戦力が整ってからが強い能力だ。それに最初のシーズンは戦力が拮抗していて抜け出すのは難しい。これはルイスもわかっているはずだ。」


 俺の指摘にルイスは頷く。


「そして、ダンジョンリーグはダンジョンを強化するためのシステムであってここで勝つことが目的じゃない。」


 俺の目的はあくまでも強いダンジョンを作ることだ。


「だからこそダンジョンリーグで勝つんでしょ?勝てば生成コストが多くもらえてプレーオフに進めばさらにボーナスが入る。優勝ボーナスは10000ポイント、それだけでAランクのカード1枚に相当するんだから最下位で得られるドラフトのボーナスより圧倒的に上じゃない。」


 もちろん、プレーオフに進めるのなら進めた方が良いだろう。それについてはルイスの意見は間違っていない。


「プレーオフに進めるならね。プレーオフ進出できるのは上位4つ、残りの6つはその恩恵が受けれない。戦力が拮抗する以上、上位4つに入れるかはギャンブルだ。そして、プレーオフに進むためには獲得したリソースをはき出し続けないと難しいだろうね。そこまでリソースを使ってプレーオフに進めなかったらプレーオフに進んだチームとの差はしばらく崩せないと思う。ルイスは絶対にトップ4に入れる自身はあるか?」


 俺は最初からギャンブルに出るのは危険だと主張する。プレーオフボーナスは1位10000ポイント、2位5000ポイント、3位決定戦を行わない都合上同率4位が3000ポイント生成コストをもらえることになっている。同じように戦ってそのボーナスを得たダンジョンと得られなかったダンジョンでは戦力差に大きな差ができてしまうことは想像に難くない。確実にプレーオフに進めるのでなければ勝てなかった時のリスクは大きい。


「そりゃ、絶対勝てるとは言えないけど。それはどこも同じでしょ。」

「だからこそだよ。最初のシーズンに上位に入れなかったダンジョンは次のシーズンでも上位に入れる可能性はだいぶ低くなる。逆にここで最下位になってAランクカードを1枚多くゲットできれば2シーズン目のライバルは最初のシーズンより少ないはずなんだ。」


 争う相手が減れば上位に入れる可能性が高まる。これが戦力を安定して強化するための最も確率の高いルートだと俺は考えた。


「それにこの作戦はダンジョンが口を開くまでにやらないと意味が無いんだ。それまでに安定した戦力を手に入れるためには最初のシーズンで動かなければ手遅れになってしまうかもしれない。それに最初のシーズンは魔物の育成に集中したい。」


「わかったわよ。あたしは魔物であなたはダンジョンマスター。決定権を持つのはあなたよ。だから、あんたの思うようにやりなさい。その代わり、最強のダンジョンを作りなさい。ダンジョンが開く前に絶対にあたしをトップに立たせなさい。」


 ルイスは俺の熱意に押されるように最下位スタートの方針を了承してくれた。


「わかった。おまえが絶対頂点に立てるように全力を尽くす。」


 その代わり、ルイスを頂点に立たせることを約束することになったがきっとチャンスはあるはずだ。俺はリーグ優勝に向けての計画を考えていくのであった。



 こうしてダンジョンの方針を決めた俺たちはダンジョンの作成に着手する。


「最初に作るのはボス部屋だな。最後の砦にしてルイスのホームになるわけだけど希望はあるか?」


 こちらについてはルイスのやりやすいことが最優先だ。ルイスの意見を積極的に取り入れていく方針だ。


「そうね。眷属やアンデッドたちを大勢並べられるように大部屋が良いわ。魔水晶もこの部屋に置いてちょうだい。あたしの魔力量の回復に役立つわ。」


 魔水晶とはSランク級の魔物ほどの魔力を持った人のサイズを優に超える大型の鉱石だ。Sランクの魔物と同じく毎日DPを100ポイントずつ稼いでくれる設置型のアイテムでもあるのだがダンジョンに魔物が湧く頻度を増やしてくれたりと効果は大きい。その代わり1つの階層に1つしか設置できないなど破格の性能の代わりに制限も多いのが特徴である。


「わかった。大部屋にして魔水晶も設置するぞ。」


 俺は大部屋を制作するのに1000DP、魔水晶の設置に10000DP消費してルイスの希望通りにボス部屋を作る。これで残りは9000DPだ。


「魔結晶も設置するか?成長すれば魔水晶になるし。」


 魔結晶は人のサイズほどの鉱石でAランク級の魔物ほどの魔力を持っている。毎日30DPずつ稼いでくれ、魔力を蓄えて成長すると魔水晶になる。


「いろいろ設置してくれるのはありがたいけどそんなに最初からDPを消費して大丈夫なの?」


 ルイスが心配そうに尋ねてくる。


「魔結晶まで含めて消費DPは16000。残りは4000DPになるけどルイスと魔水晶だけで毎日200DP稼げるから100日あれば20000DP稼げる。最初のシーズンはダンジョンリーグも勝ちに行かない方針だしその間に元通りだよ。それよりも魔水晶や魔結晶の恩恵で魔物が育つ恩恵の方が大きいよ。」


 魔物や魔水晶や魔結晶、Sランクの魔物など強い魔力を浴び続けると魔物は少しずつ成長していく。ある程度成長すると上位種に進化するなど育成環境を整える意味は大きいのだ。


「それにいろいろ置く分、ルイスには魔物の育成にも力を入れて欲しいし。」


 ルイスにはダンジョン内での魔物の育成を任せることにした。俺が常にダンジョンを見れるわけではないしダンジョンには入れないので現場指揮官が必要なのだ。


「それはもちろん。あたしのためにもなるわけだし。それに1シーズン目は勝ちに行かないみたいだから時間もありそうだし。」


 他の魔物を強くすることはダンジョンのためになることはルイスもわかっている。


「まずは手始めにスケルトンの強化を頼みたい。できれば1シーズン目の終盤までに1,2体Cランクに進化させてほしいかな。そのために必要なことがあれば言って欲しい。」


「今シーズンは最下位狙いじゃ無かったの?ってなんか悪巧みしてる顔ね。いいわ、魔物を進化させるのって結構大変なんだけど。このルイス様が見事に進化させてみせるわ。」


 ルイスは胸を張ってそう言った。

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