第10話 守る者はいなくなり
離婚によって、私とマヤとの縁は完全に断ち切れたのだと思っていた。
もう、直接関わることはないのだと。
当然のことだけど、ジャンナと一緒に公爵家に戻ってくることができた。
私は私の新たな生活を始める。
馬車から降りると、ドレッド公爵家の屋敷の前では、使用人だけでなく、両親とお兄様が出迎えのために待っていてくれた。
「ごめんなさい。お父様、お母様、お兄様」
自分の役目を何一つ果たさずに、公爵家の評判だけを落として家に帰ってくることになった。
この時はまだ、申し訳ないと思う気持ちが強かったのだけど、
「私達は、お前を生贄に捧げたつもりはない。よく帰ってきてくれた」
出戻りの私を、両親は温かく迎えてくれた。
それどころかお父様は、申し訳なかったと何度も私に謝ってきた。
何度も何度も謝ってきた。
矯正のために私との婚約を了承したが、私のためには何一つならなかったと。
私は喧騒から逃れ、王都を後にした。
公爵家の領地に戻って、それからしばらく目立たないように厳かに奉仕活動に従事していた。
その一方で、マヤが姿を現すたびに、新聞にはマヤのドレスや装飾品がいくらなのかも、赤裸々に金額が掲載されるようになった。
アルテュールは記事の差し止めを迫ったが、その新聞社の所属がリカル公国だった為、直接手出しができずに、苦情の申し立てにとどめざるを得なかった。
新聞社としては、マヤがより親しみを持たれるように、多くの国民がファッションを参考にできるよう伝えているだけだとの見解を示していた。
真意がどこにあるのかはわからないが、不作の影響で生活が苦境に立たされている国民の鬱憤は溜まっていくことになる。
ホルト王国の多くの国民が貧困に不安を抱く一方で、マヤの散財は対照的だったから。
アルテュールは、平民が何を言った所でどうせ何もできないだろうと鼻で笑っていたそうだ。
だから、自分の隣にいる飾り立てられたマヤがどのように見られていても、気にしていなかったらしい。
私の言葉が全く届いていなかったのには無力感しかない。
みな、競うように新聞を購読し、時には回し読みをして、特にマヤへの恨みを募らせていった。
マヤがたった一度しか着ないドレスが平民にとってどれだけ贅沢なものか、もっと配慮するべき事だったのに。
たとえそれが、国家予算の中での大した割合でなくとも。
私がそうしなかっただけで、秘密が知られてしまえばマヤはすぐに引き摺り落とされてしまう。
今まで私や公爵家がどれだけ助けていたのか。
今はもう、アルテュールしか彼女を助けようとする者はいないのに。
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