第6話 奪われたもの

「身の程を弁えろ。貴様が俺に意見するなど、許されないことだ」


 アルテュールは誇示するように傲慢な態度をとり続け、口角を歪に持ち上げ、私に嫌味な視線を向けてきた。


「そうだ。いいことを思いついた。貴様の侍女をマヤの専属とする。たしか、ジャンナといったな。敬われるべきマヤに人手が足りないから、ちょうどいい」


「そんな、ジャンナは公爵家から連れてきた侍女です。いくら陛下といえど、それは聞き入れられません」


 まさか矛先がジャンナに向くとは思わなかった。


 私の焦りを感じ取ったのか、アルテュールはさらに強気な態度となり、


「うるさい!!今日中にマヤの元へ向かわなければ、罰を受けるのは貴様の侍女だ」


 それ以上私に反論の機会を与えずに、突き飛ばされるように、部屋から追い出されていた。


 ハッキリと物事を言いすぎて、彼のことを煽ってしまったのかもしれないと後悔した。


 でも、それでも、こんな風に暴力を振るうとは思わなかった。


 それに、ジャンナを巻き込んでしまって……


 部屋を出ると、廊下で控えていたジャンナがすぐに駆け寄ってきた。


「ヴァレンティーナ様、すぐにお顔を冷やしましょう」


 私を支えるように腕を伸ばしたジャンナを制して急いで部屋に戻ると、彼女に伝えるべき事を伝える必要があった。


 自室では、他の侍女達も心配そうに私の周りに集まって来たけど、その中でもジャンナを正面から見つめた。


 王家に嫁いでから、ジャンナの自慢の金髪に陰りがあるように見える。


 それだけ苦労させてしまっているのだ。


 少しだけ年上のジャンナがまだ若いのは当然のことで、そしてとても綺麗な容姿をしている。


 姉のように思っている彼女に、これ以上の苦労をかけたくはない。


 彼女には彼女の幸せを見つけてほしい。


「貴女は今すぐに公爵家に戻って。公爵家に帰ってしまいさえすれば、手出しはできないのだから」


「それは、何故ですか?」


 ジャンナは酷く驚いた表情を見せた。


「貴女をマヤの侍女にしろと、陛下から命令されたの。従わなければ、ジャンナが罰を受けると」


 それを伝えると、ジャンナは不安がるどころか、トンと自らの胸を叩いて笑ってみせた。


「大丈夫ですよ、ヴァレンティーナ様。むしろこれは好機です。私がマヤの元に行って状況をお知らせします。それで、マヤを蹴落とす弱点を見つけましょう」


 その言葉に、慌てたのは私の方だった。


「そんなことはしなくていいの。必要のないことよ」


「私よりもヴァレンティーナ様の方が心配です」


「お母様に仕えていた侍女の方々がいてくれるから、心強いことよ」


 それには、周りにいた侍女達が頷いてくれた。


 みな、ベテランの信頼できる人ばかりだ。


「だから、私は大丈夫。ジャンナ、本当に平気なの?」


「お任せください。ヴァレンティーナ様が耐えなければならない期間が平穏に過ごせるように役に立ってみせます」


「心強い言葉だけど、危ないことはしなくていいのだからね」


 わかってくれたのかどうか、ジャンナの輝くような微笑みからは読み取ることはできなかった。






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