第31話

 12月28日。

 午前7時10分。


 わたしが推理を語り終えたところで、鮫島の部屋の検証はお開きとなった。

 一同はばらばらと各々の部屋へと戻っていく。

 ゲーム最終日を明日に控え、探偵たちの表情は硬い。

 謎を解くことが出来なければ、最悪全員がここで死ぬことになるのだから、それも当然だろう。


「助手ちゃん」

 そんな中、飯田だけが何時も通りマイペースだった。


「さっきの推理、中々様になってて格好良かったよ」


「……ありがとう」


 飯田は何故か嬉しそうに笑っている。

 この場合はマイペースというより、緊張感がないと言った方がいいのかもしれない。


「うーん、でもなー。助手ちゃんとは同じ窯のカレーライスを食べた仲だから、一応教えておいてあげるね」

 飯田は少し迷うような素振りを見せてから切り出した。


「教えるって何を?」


「今の君の状況ってさ、実は結構ヤバかったりするんだよね。ほら、さっき皆の前でアリバイ証明しちゃったじゃん。あれは良くなかったよね。あんなことしたら、次に犯人に狙われるのは助手ちゃんだよ?」


「……うん、分かってる」


 全員の前でわたしのアリバイが証明されたことで、容疑者はかなり絞り込まれたことになる。もしこの状況で犯人が殺人を続けるとするなら、わたし以外のプレイヤーを殺すのは得策ではない。


 そうでなくても、犯人にとってわたしは邪魔な存在だろう。

 しかし、リスクは覚悟の上だ。


「まァこの状況で犯人が不用意に動くとも思えないけどね。でも助手ちゃんが危険であることに変わりはない。死にたくなければ、極力出歩かない方が賢明だよ。鮫島が殺された今となっては、部屋の中が絶対に安全かどうかも怪しいところだけどさ」


 飯田はそれだけ言うと、他の探偵たちと同じように自分の部屋へと戻っていった。


「…………」


 部屋に帰って、わたしは上着のポケットの中を探る。

 そこには一枚の紙切れが入っていた。


『PM01:00 屋上にて待つ』


 城ケ崎がすれ違いざまにわたしの上着のポケットに入れた手紙だ。

 鮫島の部屋を出るとき、城ケ崎はわたしと一切目を合わせなかった。

 わたしの勝手な行動で、アドバンテージを大きく失ったのだから、それも仕方がない。本当なら破門にされても文句は言えないところだろう。

 探偵助手失格だ。


 しかし、城ケ崎はまだわたしを必要としてくれている。

 否、果たして本当にそうだろうか?

 気になるのは城ケ崎が指定してきた場所だ。これまで話し合いは毎回城ケ崎の部屋の中で行われてきた。

 それが、今回に限って屋上を指定してきたことに何か意味があるのか?

 本来なら飯田の助言通り、自分の部屋の外に出ることは極力避けるべきだろう。犯人がどんな方法で殺人を行っているかは不明だが、わざわざ自分から危険な場所に出向くこともない。


 だがしかし、わたしは城ケ崎に会いに行くことにした。

 城ケ崎を裏切ったことへの後ろめたさも勿論あったが、それ以上に事件の真相を知りたいという、探偵助手として当然持っている本能を抑えることが、どうしても出来なかったのだ。

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