第2話始まりの村(1)
眩しさを感じ重たい瞼をようやく開ける、ぼんやりとしていた眼の焦点が合ってくるとそこには青く澄んだ空にオレンジ色の雲がいくつか流れ、その間を1羽のテノ鳥がくるくると周りながら囀り飛び去っていく、それを虚ろに眺めた。
「緑青の縞テノ鳥か、じゃあ雄か、脂はのっていないな」誰とはなしにつぶやく。
呟いたのは最初に意識を取り戻したアラタだった。
そのうちに感覚が戻てきた「うっぐう!なんだこの痛みは、骨も筋肉もバラバラになりそうなくらいの・・おまけに背中が」
背中の感触は多分岩だ、ではもうどれくらいここで仰向けになっているんだ、今は魔王城じゃないのか、いや空があるから違うのか。
まさか1ヶ月か1年か?勇者レベルMAXになってからは岩の上でも数日ならば警戒しつつ熟睡していた。
まてまて、これまでの記憶があやふやだった、最初に必要なのは状況を適切に判断すること、まず自己ステータスの確認そして仲間の救出、自分が回復さえしたなら。
「自己精査!」スキルを念じた、集中さえ出来れば言葉にする必要は無い、怪我や残りの魔力や体力の確認をして修復する。
空中にクラウドが浮かび上がり表示される数値が自動的にゆっくりと頭の中に流れ込む、いちいち読む必要が無いのはなかなか便利なのだが。
「お?え?なっ!!ぐああ」脳内に次々とデータが流れ込む、その数値の意味を理解するごとに獣のような言葉にならない声が出た、同時に脂汗が額ににじむ。
「馬鹿な・・こんな初期れべるだと?ありえない」
幸いにも自身に大きな怪我はない、しかしすべてのステータスが初期値に戻っているじゃないか、これでは敵がスライム1匹だったとしても苦戦するぞ、武器もレベル不足で今は聖剣を持つことさえ出来ないじゃないか、と・とりあえず棍棒が必要だ。
気がつくと際限なく何度もため息をついていた「いかんな、これはいかん」徐々に指が動くぞ感触も戻っているのぞ腰に手を伸ばしてみた、「うっ」持病の腰痛が痛む。
力無く腰をなでているとベルトのバックが指に触る、思いついてその中に指を突っ込むと「有った」丸薬が指に触った、つまんでゆっくりと取り出し口に突っ込んだ、噛むと途端にきつい臭いと刺激の有る味が口の中に拡散する「うええ苦」解毒剤だ!、本当は気付け薬が欲しかったんだがな。
何でもいい!刺激が有れば体が動くはずだ、強烈な苦みのために口の中はしびれているが、神経は繋がったらしくようやく体を起こして周りを見回した。
近くには数歩のところに一つ二つ・・遠くても20mも離れてはいない場所に見慣れた装備が7個散乱しそれの所有者の人影も見える、全員ここにいるようだがまだ動いている者はいない、バラバラにならなかっただけでも良かったよ、ところで生きているか?周囲の安全はどうか?ところで「m」って何の単位だ?
「メンバー全員の安全確保はリーダーの俺の役目だ、いや勇者だから?年長だから?何で俺が年長?25歳だったはず」
なんだ、俺は何か忘れているぞ、とても大事な古いことだったはずだが。
思い出せない記憶を探ろうとしていると後ろの方で何かの気配を感じた。
ズルッと言う音とともに「とおてもおおお痛いですううう」影の一つがもぞもぞ動きながら間の抜けた声を出した、あれはヒーラーのモフだな、やっと気がついたようだが怪我はないのか確認をしないと。
「モブブ、ケホッダジジヨウガア」舌が痺れてうまく話せない、俺も間抜けかよ。
「何あにい言ってるか判んないですう、アラタさんん元気ですか?」口だけ元気なモフが反応をする。
「・・・」それには答えずに水袋を取り出しわずかに残った水で口をゆすいで吐き出した、しびれが取れていく「あー、あー本日は晴天なり」よしこれで話が出来るぞ。
「それ何の呪文ですか、聞いたことないですうう」モフはまだうまく手足が動かないのかズリズリと芋虫のように這いながら更に俺のところに近づいてくる、いやなんか見た目にちょっと怖いんだが。
そしてそれを見てついお互いの目を見つめ合って固まってしまった、俺は何をやっているんだアラタは気恥ずかしさに少し頬を赤らめた。
すぐに気を取り直しアラタは再び周囲を見わたした、見える範囲の草原にはそよ風が吹き小さな花を付けた雑草がそよぎ羽虫が飛んでいる、がそれ以外に小動物も見当たらない、視線を上げるとわりと結構遠くまで見通せる、その先にはかすかに煙のような筋が上がっているのが見えた、きっと人家か村があるはず。
「モフ、みんな気がついたらここから移動するぞ、いつまでも見通しの良い平地に寝転んでいてはいつ襲撃されるか判らないからな」
アラタは自分の状況から推定すると最悪の場合はメンバー全員がレベルダウンしている可能性があると判断した、早急に近くの村に移動しないと。
私、体が痛いのでぐっぱぐっぱと手を動かしてみる、ついでに「ケア」を念じたが何も起きない、あうう、魔力が枯れちゃってるよう、どうしよううっ、私いい、魔力無いヒーラーってただのお荷物じゃん、捨てられちゃうよお。
「アラタさんん、どうしよううっ、ぐすううう、捨てないでくださいいい」ズビイイと私はアラタの鎧に鼻を擦り付けた、一筋の光が私の鼻からアラタの鎧に伸びキラキラと美しく光ってる。
「こら、鼻水をこすりつけるんじゃない、捨てたりしないからな全員起こして移動するぞ、ほら急げ」
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