第24話 一年前

♪チーーーーーーーーン(りんがなる音)


 僕は、色葉さんが作ってくれたオムライスを口に運ぶ。

 ケチャップの程よい酸味と、卵の甘みが絶妙だった。香さんじゃないけど、色葉さんは良い奥さんになりそうだ。


 僕は、卵のところを避けて、ご飯を小さくすくって、未来に食べさせる。

 日頃食べないご馳走に未来も大喜びだ。


「色葉さん、すごくおいしいよ。」

「ありがとう!喜んでもらえてよかった。」

「今日は、いつにも増して気合い入ってたからね〜。昨日の買い出しからずっとそわそわしてたし。」

「余計なことは言わないくていいの!恥ずかしいよ・・・。」

「照れてる娘もかわいいな〜。」


 そう言って、香さんは色葉さんに抱きつく。

 姉妹のじゃれ合いのように見えてしまうが、親子であることを思い出す。

 こんなに仲の良い親子もいるんだな。


「パパにもごはんあげる!」


 チーちゃんが立ち上がり、キッチンに向かうと、プラスチックのファンタジーランドのキャラが入ったお皿を持ってくる。


「そうだね。パパにもあげようね。」


 香さんがお皿を受け取り、オムライスと唐揚げをよそった。


「じゃあ、パパの分はチーにハートを書いてもらおうかな〜。」

「あかった!」


 チーちゃんは、ケチャップのボトルを逆さに向けて、ケチャップを振りかける。ハート・・・というよりは、丸に近いけど、チーちゃんは満足そうだ。


 チーちゃんは、お皿を手に取り、先ほど見かけた仏壇の前に持っていく。


 やっぱり、色葉さんのお父さんは亡くなっているようだ。


「たくさんぱえて、げんきになてねー。」

「せっかくだから、みんなでお祈りしようか。」

「そうだね。」


 香さん、色葉さんも立ち上がり、仏壇の前に行く。

 2人が手を合わせて目を瞑ると、遅れてチーちゃんも同じように手を合わせた。


「チー、いつものやってくれる?」

「あい!」


 チーちゃんが仏壇の前にある鐘(りんというらしい)を鳴らす。

 長い金属音が部屋の中に響き渡る。

 色葉家からは、いろんな音が聞こえてくる。

 りんの音は、悲しくもあり、彼女たちを慰めてもいるような音だった。


「いきなりごめんね。今日はパパの命日なんだ。」


 色葉さんが戻ってきて説明してくれる。


「1年前に過労で倒れてそのまま亡くなったの。忙しい仕事だったんだけど、私、パパのことに気づけなかったんだ。」

「穂花のせいじゃないのよ。パパは、あなたたちのために頑張ってた、それだけなの。穂花が元気じゃないと、パパも安心できないよ。」

「分かってる。1年経って、少しだけ受け入れられたけど、やっぱりまだ実感がないの。」

「そうね。それは、私も一緒よ。」


 改めて、色葉さんと香さんが抱き合う。


「なんか湿っぽくなっちゃった。そんなわけで、我が家は男手が少ないので、奥山くんが家に来てくれるのはウェルカムなのです!娘たちのことをよろしく頼むぞ〜。」


 香さんはこうしてみんなを元気づけるのだろう。

 母親って、すごいんだな。


「分かりました。僕にできることであれば、協力します。」

「うんうん。頼もしいね。じゃあ、お言葉に甘えて、今日は穂花が頑張って作ったご飯を完食してください!」


 おぉ、結構すごい量だけど。


「男に二言はありません。いただきます。」

「奥山くん、無理しないで大丈夫だよ。」

「こんなにおいしいご飯は久しぶりだから、全部いただきます。」


 僕はこうして、3人前ぐらいの料理を食べきった。

 最後には、未来の好きなプリンも手作りで用意されていて、未来はおいしそうにほおばっていた。

 色葉さんは、僕たちの姿を見て喜んでようだ。

 少しでも元気になったのなら、後悔はない、かな。

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