第21話 成功

 僕たちが話し合っている間も、チーちゃんと未来は、鬼ごっこをして遊んでいた。チーちゃんが鬼役のようで、未来が懸命になって逃げるものの、年齢差もあってあっという間に追いついてしまう。捕まった未来は、笑いながらまた逃げようとして、すぐに捕まってしまう、というのを繰り返していた。


 そういえば、鬼ごっこって、逃げる役を鬼が必死になって追いかけるものだ。ただ追いかけるだけなのに、あんなに夢中になれるのは、目の前に目標があるからだろう。


 もしかしたら、これは応用できるかもしれない。



♪シャーーーーーーー(自転車の車輪が回る音)


「チーちゃん、そろそろ練習しようか。」

「うん!がんがる!」

「今回は、色葉さんと未来に協力してほしいんだ。」

「うん!なんでもやるよ!何をしたらいい?」

「そうしたら、僕たちのスタートラインから20メートル先ぐらいに行ってくれるかな。」


 2人は、20メートル先に向かい、立ち止まる。


「じゃあ、そこからいつものようにチーちゃんを応援してくれるかな。」

「分かった!」


「チーちゃん、今度は手や足を見ないで、お姉ちゃんの方を見ながらこげるかな。」

「やってみりゅ!」

「じゃあ、行くよ!」


 チーちゃんはペダルをこぎ出した。僕も彼女の背中を支える。


「そのまま真っ直ぐ前を見るんだ!」

「チー!こっちだよ!がんばれー!!」

「あーーーーー!」


 色葉さんと未来が応援する。未来があんなに大きな声を出したのは初めてかもしれない。

 僕は、5メートルぐらい進んだところでそっとチーちゃんの背中から手を離す。


「こぎ続けて!」


 チーちゃんは、真っ直ぐ前を見て、足元のペダルをこぎ続けた。

 すると、自転車は倒れることなく、色葉さんと未来のもとへ向かっていく。


「チー、すごいよ!もうちょっと、あともうちょっとだよ!」

「おーーーーーー!!」


 15・・・16・・・17・・・18・・・19・・・


「着いた!着いたよチー!って、あれれ」


 20メートルを超えても、チーちゃんは色葉さんたちを通り抜けて転ばずに進んでいく。

 そういえば、止まり方を教えてなかった。


「色葉さん!止めてあげて!」


 色葉さんがチーちゃんのもとに駆け寄り、自転車を止める。


「でけた!」

「そうだね!上手に乗れてたよ。チー、がんばったね!」


 色葉さんとチーちゃんがハグし合う。

 未来も近づき、チーちゃんの頭を撫でている。

 僕も近づくと、


「おっきゅん、でけた!」

「そうだね。チーちゃんが頑張ったからだよ。」

「うん。みんなでがんがった!」

「もう少し練習してみる?」

「うん!」


 その後、同じように練習した結果、チーちゃんは転ばずに自転車に乗れるようになった。

 よかった。チーちゃんの努力が実を結んで。


 チーちゃんが自転車に乗れるようになれば、こうして色葉さんたちと一緒の時間を過ごす理由もなくなる。

 そうなってしまうのは、なんだか寂しくもあったけど、今は、もう少しだけこの喜びをみんなで共有していたかった。


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