第17話 先生
♪カタカタカタ(キーボードを打つ音)
僕は職員室に向かい、先生を探した。
部屋の中には誰もいないみたいだ。席を外しているんだろうか。
そう思っていたら、職員室の机の上に置かれた本の物陰から、少しだけ何かが動く気配がした。近いづいてみると、シスター服をきちんと身にまとった姉崎先生が一心不乱にパソコンに文字を打ち込んでいた。
シスター服にパソコン、なんだか不思議な組み合わせだ。先生の近くに行くと、ようやく僕に気づいてくれた。
「ごめんなさい。集中していて気付きませんでした。って、奥山くんじゃないですか。」
「こんにちは。」
「夏休みなのに学校に来ていたんですね。どうかしましたか。」
「図書室に誰もいないので、それを伝えようと思って。」
「ありがとうございます。ということは、浅見河原さんは、もう帰ったのですね。」
「そうですね。ゆ・・・浅見河原さんは、よく来るんですか。」
「夏休みに図書室を開放しているのは彼女の要望だったんです。だから、浅見河原さんは、毎日図書室に来ますよ。」
「そうなんですか。」
「奥山くんは、何か調べものですか?それとも受験勉強?」
「どちらかというと前者です。でも、特に深い動機があるわけではないです。」
「せっかく図書室を開放しているので、利用者が多いのは学校としても歓迎ですよ。ところで、浅見河原さんとは仲良くなりましたか?」
「どうでしょう。少し話したりはしますが、友達っていうほどでもないですね。」
「彼女もあまり積極的に人と関わろうとしないから、よければ奥山くんが友達になってあげてくださいね。」
「頑張ってみます。」
「ところで、奥山くんの夏休みはどうですか?元気に過ごせていますか?」
「可もなく、不可もなく、です。」
「それはいいことです。望みすぎはよくないですし、かといって恵まれていないこともよくありません。私は、奥山くんが元気でいてくれて良かったと思っています。」
「そう・・・ですか。ありがとうございます。」
「もし本当は元気でなかったら、私でも、私でなくても構いませんので、気持ちを教えてくださいね。人に話すのが恥ずかしかったら、神様に言うのもいいですよ。」
「神様っているんですか?」
「私は、このような職業なので神の存在を信じています。でも、それは無理強いはできません。一つ言えるのは、信じれば、そこに神はいるということです。」
「そんなものですか。」
「ええ、そんなものです。そうですね・・・学校の教会は覚えていますか?あそこで祈りを捧げれば、もしかしたら神様に会えるかもしれません。神聖な空間ほど、自分が信じる神に会える可能性が高いものですよ。」
だから、由依さんも祈りを捧げていたのだろうか。
「わかりました。困ったら、やってみます。」
「ええ。もちろん、先生も力になりますからね。」
「ありがとうございます。」
姉崎先生は、最後に僕に優しい笑顔を向けてくれた。
なんとなく、人気が出る理由もわかった気がした。
僕も先生にお辞儀をして、職員室を後にした。
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