第10話 お願い
しばらくして、色葉さんは起き上がった。
「ごめんねー。小芝居に付き合わせちゃって。」
「大丈夫。その子は、妹?」
「そう、
「うん。この子は未来。1歳と半年ぐらいかな。」
「かわいいーー。こんなに騒いだのにぐっすりだね。お兄ちゃんの腕の中は安心なのかな?」
「どうだろう。今日は少し疲れたみたいだね。」
「保育園の迎えの帰り道なの?」
「そうだよ。橋の向こうの保育園に通ってる。」
「あっちの保育園かー。千景は、駅から少し離れた保育園に通ってるんだ。今日は、ママが仕事だから、私が迎えに行って一緒に遊んでたの。」
「二人は仲がいいんだね。」
「うん!チーは、ホノがだいしゅきだよ。」
「私もチーのことが大好きだよ! いつもありがとう!」
そう言って二人は抱き合っていた。さっき会って話したばかりなのに、二人を見ているとなんだか心が和らいでいく。
「奥山くんも小さい妹がいたんだね。いつもお迎えに行ってるの?」
「そうだね。母親が病院の看護師だから、家にはいつもいないかな。」
「わかる! 大変だよねー。私ももっと友達と遊びに行ったりしたいけど、チーの面倒があるからあんまり行けないんだ。その代わり、休み時間とかにみんなと思いっきり話そうと思って。」
だからあんなに話しかけるんだ。僕にはなかった発想だ。
「そういえば、ここはどこなんだろう。実は道に迷っちゃって。」
「だからかー。初めて今日会ったもんね。奥山くんの家は何丁目なの?」
「6丁目だよ。スーパーの近くかな。」
「それなら、道を一本外しちゃったんだね。もう少しまっすぐ行けば、見慣れた道に出ると思うよ。」
「ありがとう。じゃあ、僕はこれで・・・」
歩き出そうとしたら、
「待って! ちょっと教えてほしいことがあるの。」
「どうしたの?」
「自転車の乗り方って、どうやって教えればいいかな?」
「チー、ちゃんのこと?」
「そう! 早くコマを外してあげたいの。」
「4歳で乗れる子はあんまりいないと思うけど・・・。」
「そうなんだ。でも、早く覚えても損はないじゃない。うち、パパがいないからどうすればいいか分からないんだよね。」
「確か、まずはペダルをこがないで立ちながら進むといいって聞いたことがある気がする。」
「そうなんだ! さすが男の子だね。そうだ! よかったらチーに乗り方を教えてあげてくれない?」
「僕が?」
「そう。奥山くんが!」
「時間はあるから大丈夫だけど・・・」
「じゃあ決まりね! 明日もこれぐらいの時間にお迎えだよね?」
「うん。」
「じゃあ、また家の前に来てね。そうだ、あとメッセージのアカウント教えて。」
「う、うん。」
「何かあったら連絡しようと思ったんだけど、ダメ・・かな?」
「いや、大丈夫。メッセージに気づかないことも多いんだけど。」
「大丈夫だよー。私は、秒で返すからね!」
色葉さんは可愛くウインクする。
そして、お互いにアカウント情報の交換を終えて、
「じゃあ、またね!」
「ばばーい!」
二人の笑顔に見送られて、家へと歩き出す。
気づいたら、さっきまでのモヤモヤはなくなっていた。
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