第9話 出会い②
♪チリンチリン(自転車の鈴の音)
「えっと、奥山くん?」
自転車の鈴の音が聞こえる民家から名前を呼びかけられる。
声の方を振り向くと、白い壁の2階建ての家があり、腰ぐらいに切りそろえられた生垣の先に青々とした芝生覆われた庭が見える。
そこには3歳ぐらいの女の子が、コマ付きの自転車に乗って、自転車の練習をしているようだった。その脇には、僕と同い年ぐらいの女子が立っている。
ショートボブの茶色い髪。
駅前にあるテーマパークのウサギのキャラが付いたピンがとまっている。
同じテーマパークのクマのキャラがプリントされた白いTシャツが少し大きめの胸で強調されている。
くるぶしが少し見える短めのデニムのズボン。
少しだけ日に焼けた肌が健康的だ。
そして大きい目と、優しい笑顔。
「・・・。」
「もしかして、私のこと知らない?」
笑顔がいぶかしげな顔に変わる。
「そんなこと・・・ないです。」
「あやしい! じゃあ、最初の文字だけヒント。最初は、い、だよ。」
「い・・・いろは、さん?」
「ピンポーン! よかったー、1学期一緒だったのに、私幽霊だったらどうしようかと思ったよ。」
「ごめん。ちょっと自信がなくて。」
「じゃあ、下の名前はなんでしょう?」
「えっ」
「あははー。これは難しいか。じゃあヒント。最初は、ほ、だよ。」
「ほ・・・ホワイト。」
「外人かーい! 色はホワイトって、自己紹介するのが恥ずかしくなっちゃうよ。」
「そ、そうだね。」
「正解は、穂花だよ。クラスのみんなも好きなように呼んでるから、奥山くんも好きに読んでいいよ。」
「じゃあ・・・色葉さん、で。」
「真面目だなー。でも名前を覚えてくれてありがとう。」
そう、この少しテンションが高めな女の子は、同じクラスの
友達が少ない僕が、かろうじて名字を思い出せたのは、変わった名字だったからだ。
クラスの中心的な人物、というわけではないけど、明るい性格でいつも休み時間は男女問わず誰かと話している。特定のグループにいるというよりは、誰とでも仲が良いタイプの子だ。
「私は、色はブラッキュだよ。」
自転車に乗った女の子がそう言った。
色葉さんと同じぐらいの長さの茶色がかった髪が汗で濡れている。
前髪に色葉さんと同じキャラのピンがとまっていて、おでこが見えている。
水色のワンピースを着ていて、コマ付きの自転車にまたがっている。
色葉さんよりももう少し焼けた肌は、屋外でプールでもしたんだろうか。
そして、大きな目と屈託のない笑顔。
端的にいえば、一目で姉妹だと分かる容姿。
「おっ、出たなブラック。この私が真っ白に染めてしんぜよう。」
「ブラッキュはサイキョウだよ。ぜったいに、まけないよ。」
「うわー、闇の力に染められてしまう。奥山くん、私に力を!」
「えっと・・・どうぞ」
「ずるい!お兄ちゃん、私もヤミのちから、くだしゃい。」
「は、はい。どうぞ」
「奥山くんの裏切り者ーーー。ばたっ。」
そう言って、色葉さんは庭に倒れ込んだ。自転車の女の子は嬉しそうだ。
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