第6話 沈黙【7月17日】

♪スーーーーーハーーーーー(タバコを吸ってはく音)


 日曜日の今日は雨だったので、家にいることにした。昨日は、未来を公園に連れ出したりもしたけど、暑くて長く外にいることはできなかった。そう考えると、今日は少しだけ涼しくて過ごしやすい。

 相変わらず未来は大人しくしていたので、絵本を読み聞かせたり、テレビを見せたりして時間をつぶした。

 テレビを見せている間、自分の部屋を片付けるため15分ほどリビングから離れたとき、リビングから鳴き声が聞こえた。アニメはまだついていたけど、僕がいないことに気づいて寂しくなってしまったらしい。幼いころに父親が離婚していなくなってしまい、母親と過ごす時間が短いからか、一人でいることに気づくと泣いてしまう癖がある。僕はリビングに戻り、未来を抱きかかえ、ようやくショートヘアぐらいに伸びた髪をなでてあやす。


 時間は正午になっていた。すると、家の鍵が開いた。


「ただいま。」

 ひどく疲れた声の今日子さんが帰ってきた。夜勤明けは帰ってくる時間が早い。


「会うのは久しぶりね。今日も救急の患者が多くてすごく疲れた。このまま寝ていい?」

 僕はうなずく。

 すると、今日子さんはベランダに行き、タバコを吸い始めた。もちろん僕は吸わないけど、匂いがきついのであんまり好きではない。


 窓は完全に閉めておらず、網戸越しから

「そういえば、未来の風呂上がりの保湿剤、ちゃんと塗ってる?この時期は汗もかくし、ちゃんと塗らないと汗疹になるの。未来の肌の調子もだんだん悪くなってるし、ちゃんとやってくれる??」

「すいません。」

「ちゃんと分かってくれてるのかな。お母さん、毎日仕事が忙しくて大変なの。公太がしっかりしてくれないと困るのよ。理解してるよね。」

「大丈夫です。」

「もっとまともな返事はできないの?もういいわ、あとはよろしくね。」


 今日子さんは、2、3口、タバコを吸っては吐いたあと、自室に入り眠りについた。仕事が忙しいのは本当で、こうして会う時間も同じ家に住んでいるとは思えないほど短い。そして、こうしてたまに会う時間は、家事の『訂正』をもらって会話が終わる。


 その場に座った僕のもとへ、未来がつたない歩き方で近寄ってきた。そして、そのままアグラをかいた僕の足の上に乗り、何も言わず未来も座っていた。

 言葉を話すことはできないけど、彼女なりに僕を気づかってくれているのだろう。未来の存在は、僕を制限するものでもあり、僕を支えてくれるものでもあった。

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