第5話 日常
♪さよーなら(保育園で帰りのあいさつを言う園児たちの声)
午後4時30分、洗濯物を取り込んだ後に、家から歩いて15分ぐらいのところにある保育園を向かった。自転車で行ければもっと近いけど、1歳半年を過ぎたばかりの未来は、まだきちんと自転車の座席に座っていることができないし、何より多摩市は坂が多いから、自転車での移動はなかなか大変だ。
夏は、日がまだ高く、夕方になっても蒸し暑い。明日からの夏休み、僕にとってはどうやって時間を潰そうか、そこが悩ましいことではあったけど、軽く誘えるような友達はいないし、家にいてもプレッシャーを感じるだけだ。
そういえば、学校の図書室は夏休みも開放されているって姉崎先生が言っていた気がする。涼しそうだし、行ってみるかな。
そんなことを考えながら歩いていたら、保育園に到着した。
僕が通っている高校とは比べものにならないほど小さな園庭を抜けて、未来が通っているクラスに向かう。周りには、迎えにきている母親の姿と、母の姿を見て喜ぶ子供たちが何人かいた。
「こんにちは。奥山です。」
「公太くん、こんにちは。未来ちゃんね、ちょっと待っててね。」
未来の担任の先生は、40代半ばの保育士で、保育園の中ではベテランになるようだ。うちの家庭事情も知っていて、未来や僕のことを時折気にかけてくれる。
「はい、未来ちゃん。おカバン持とうね。今日はね、おトイレ練習がんばってたのよ。結局うまくできなかったけど、帰ったらほめてあげてね。」
「わかりました。今日もありがとうございます。」
「気をつけて帰ってね。」
僕は、未来を引き取り様子をうかがう。今日も特に問題はなかったようだ。
手を握って、最初は歩いていたが、保育園を出て数歩行くと、足が止まって今にも寝そうになっていた。きっと疲れたんだろう。僕は、未来を抱きかかえ、もと来た道をそのまま引き返して家に戻った。
♪カチャカチャ(洗い終わった食器を水切りの上に置く音)
家に帰ったころには、未来が目を覚ました。
まだ少し眠そうだったけど、ここでたくさん寝てしまうと夜に眠れなくなるから、夕方に放送されている幼児向け番組をつけたところ、どうやら起きてくれたようだった。
未来がテレビに夢中になっている間に、おはしセットやコップをカバンの中から出して台所のシンクに入れ、タオルを洗濯かごの中に置いた。そして、取り込んだままで、たたむ時間がなかった洗濯物をたたんで、クローゼットの中に戻す。ここら辺は、いわゆるルーティンワークってやつになったから、体が流れるように動いていく。
そして、番組が幼児向けから小学生向けに切り替わるころを見計らって、未来を呼んでシャワーを浴びせた。
そういえば、今さらかもしれないけど、未来はまだ小さいのでしゃべったりはしない。言葉にならない音を出して意思を示すこともあるけど、単語らしい単語はまだ出てこない。ただ、基本的にはおとなしい性格なのか、わがままを言ったり、急に泣いたりはしない。
手がかからないのは、子育てをしたことがない僕にとって(当たり前か。)、とても助かることだった。
ひととおりの家事が終わった後、冷蔵庫の中に作ってある晩ごはんを取り出し、レンチンした。今日は、野菜炒め。
今日子さんは忙しいので、手の込んだ料理は作らない。野菜炒め、チャーハン、焼きそばあたりをグルグル回している感じだ。僕も流石に料理までは作る気力が起きないので、とりあえずお腹にたまれば問題がないという結論に至った。
他にも何か食べたいという気持ちがないわけではないけれど、いま、この家にそこまでする余裕はないのだ。
未来の口にご飯を運びつつ、自分の分も食べる。未来は、たくさん食べるわけではないけれど、食べさせてあげれば少しずつ飲み込んでくれる。それでも食べないときは、子供用のふりかけをかけると食べてくれるので、こういったお助けグッズは子育ての必需品なんだなと思う。
午後8時30分、晩ごはんを食べ終わり、未来が寝そうになっていたので、布団に連れて行き寝かしつける。離れて眠ると夜泣きすることがあったから、基本的には隣で寝るようにしている。ちょっと寝相が悪いのがたまに傷だけど、なんとなく隣に誰かいると安心感があるように感じる。
そうだ、おむつだけ変えなければ。僕は、未来のおむつを交換して、自分がシャワーに浴びるか(未来と一緒に入ることはできない。風呂上がりの着替えも自分でやることになるからだ。)、皿を洗うかと考えてみたけど、汗を先に流してしまいたかったので、シャワーを浴びることにした。手短にシャワーをすませ、お茶を飲んでから、皿を洗った。
全ての家事を終えて、時計を見ると時刻は午後10時前。いつもは、この後に宿題を片付けたり、スマホを見たりしていたが、今日はなんだか疲れてしまったので、僕も寝ることにした。
今日は金曜日で、土日は保育園に預けることができない。
基本的には家にいることが多く、今週の土日も暑くなりそうだったから、あまり出かける気にはなれないな。確か今日子さんは、土曜日が夜勤だから、土日はほぼいないということになるし、今週は家にいても問題ないか。
ということを考えながら、いつの間にか眠りについていた。
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