第4話 メッセージ
♪ピコリン ピコリン ピコリン ピコリン ピコリン・・・(スマホにメッセージが届く音)
家に帰った僕は、冷蔵庫に残っていた余り物をお昼ごはんとして食べて、室内を見まわした。
リビングに物は落ちていない。食器は後で片付けよう。洗濯が干されているので、午後3時ごろにしまい込む。未来は喘息もちだから、こまめに掃除をする必要がある。今のうちに掃除機をかけておいて、保育園のお迎えが終わったら風呂に入れよう。
そのようなことを考えていると、スマホが振動し、通知音が鳴った。
「今日は早いな・・・。」
僕はそう呟いた。
{今日の依頼です。洗濯を干してあるので、忘れずに仕舞い込んでください。}
{晩御飯は冷蔵庫にしまってあります。ご飯を炊いて食べてください。}
{今日は暑いので風呂じゃなくてシャワーでいいです。風呂上がりに保湿剤を未来にきちんと塗ってください。}
{部屋の掃除機がけが甘かったです。角にホコリが残っていました。未来の喘息が悪化したらどうするんですか。しっかりしてください。}
{あと食器は決まった場所に戻すように前も言いましたよね。探すのが大変なので、元の場所に戻してください。お願いします。}
{今日は24時ぐらいに帰ります。明日は夜勤です。毎日死にそうな程忙しいです。ご理解願います。}
メッセージアプリに6件のメッセージが一気に届いた。今日子さんからだ。
いつもこうして、午後の休憩時間に『指示』が来る。忙しいからか、文面は簡潔で、高圧的だ。最初は嫌な気持ちになったりもしたが、だんだん何も思わなくなってきた。
基本的に、今日子さんが帰ってくる時に僕たちは寝ているので、『指示』に足りないことや不満があると、こうして翌日の指示と一緒に『訂正』を求められる。今日子さんは完璧主義なので、基本的に『訂正』が入らない日はない。それでも、昔は寝ている時に起こされて訂正を求められたから、こうしてメッセージで求められる方がまだ気は楽かもしれない。
{かしこまりました。以後、注意いたします。}
返信完了。
僕の返信は、最近はだいたいこれで終わりだ。
そう、僕の力では抵抗することはできないし、もはやそ抵抗する気力もなくなってしまった。
そんなこともあって、基本的にメッセージアプリは好きになれない。
そのままスマホを置こうかと思ったけど、一つだけ気になったので、めずらしくこちらから送信メッセージを送った。相手は松宮だ。
{進学科の黒髪の美人って言ったら誰か分かる?}
すぐに既読になって、返信が返ってきた。
{俺の彼女ことか?親友から奪い取るとは容赦ないな}
{ちがうよ}
{わかってるって。めずらしくコータからメッセージがきたから、つい本音が出てしまったぜ。}
{おまえ、ホントに本音で生きてるよな}
{それがモットーだからな。ご質問の回答だが、たぶん浅見河原のことじゃないか。
{あれがウワサの}
{コータにもウワサなんて入ってくるのな}
{クラスに黙って座っていればいろんな情報が入ってくる}
{おお、今度ナイスな情報をリーク頼むぜ}
{情報屋じゃないってば}
そんなやりとりをして、彼女の名前を知ることができた。
浅見河原由依、彼女は高校のちょっとした有名人だ。
美人、ということはなんとなく知っていたけど、それに加えて、父親が多摩市に本社を置くAI開発を手かげる会社の社長だとクラス内で聞いたことがある。家も大豪邸だとか。
何も不自由がないように見える彼女は、どうしてあんなに真剣に、切実に、祈りを捧げていたのだろう。いや、これ以上考えるのはやめよう。人にはそれぞれの事情がある、ただそれだけのことだ。
その後僕は、今日子さんの指示どおり、掃除機を部屋中に入念にかけて、自分が食べた昼ごはんの皿を洗い、乾いていた食器をもとの位置に戻した。そして、少し疲れたので、未来のお迎えの時間まで寝ることにした。
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