嘘を見抜くピアノ

半角あゝ

嘘を見抜くピアノ

 僕の学校には、にわかには信じがたい噂がある。


 三階の音楽準備室。扉の鍵が壊れているらしく、鍵を閉めることができないのだ。いつでも自由に入れるそこには、古いピアノが置かれている。

 それが、噂の『嘘を見抜くピアノ』だ。

 嘘をつかなかった場合の音はいいが、

嘘をついた場合、音程が著しくズレる。


 僕はそういう変な噂が好きなので、それが本当か否かを確認するため放課後に音楽準備室を訪れた。


 ギィィイイッ。


 きしむ扉を開ける。

 埃が舞う準備室には、ぽつんとピアノが置かれていた。埃がかぶったピアノを開いた。キーカバーをそっと取り、適当に鍵盤を弾いた。


 ド・・・。


 古いから故障しているのではないかと思ったが、音はちゃんと出ている。

 その後、噂が本当なのか、検証を試みた。

 まず最初に簡単な嘘をついた。


「僕は、ロボットだ」


 これで、綺麗な音が出たらと思うと・・・いやまぁ、ただの噂だ。これで本当だとしたら、すごい発見だぞ。

 僕は改め鍵盤を弾いた。


 ド、レ、ミ――――音程が著しくズレている。


 学校で音楽の授業を受けただけで知識が全くないというわけではないが、無知に近い僕でも明らかにわかる。


 ド、レ、ミ――――やはり、音程がズレている。


 噂の検証が真実だったことに大満足した僕は、準備室を去ろうとした時、ある人が訪れた。

 僕は思わず、物陰に隠れた。


『ごめんなさい。私、恋愛には興味がないの』


 僕の好きな人で、僕を振った人だ。

 ここへ来る前、僕は彼女に振られた。

 なんの用だろうか。

 彼女を目で追うと、音楽準備室へ恐る恐る入った。

 まさか・・・。

 彼女は、何回もピアノのコンクールで優勝する凄腕ピアニストだ。プロからもかなりの評判である。


 わざわざ、そこに行って・・・音楽室のピアノでいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘を見抜くピアノ 半角あゝ @sanmojiijyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ