第34話 空き教室にて

 翌日、登校してからというものの、俺はそれとなく透さんを観察して、話しかけるタイミングを見計らっていた。

 昨日の静ちゃんとのやりとりもあるから、透さんと今すぐ話したい気持ちはあるんだけど、なかなかタイミングが合わない。

 話の内容的に2人きりになりたいし。

 ただ相手はクラスの人気を独り占めにする透さん。

 女子が常に回りにいて、声をかけるどころではない。それこそどこかに場所を移して話そうものなら、いらぬ注目を浴びるだけだし。


 ひとまず透さんにメッセージを送ろうかな。話があるからお昼一緒に食べない?――って。

 よし、そうしよう。

 そう思っていた矢先、透さんからメッセージが届く。


『次の休み時間、いつもの空き教室に来てもらっても大丈夫?』


 俺はちらっと透さんを確認しながら、『分かった』と返信した。


 そして次の休み時間、一足先に空き教室に入る。

 ここで初めて透さんと話をして、それから手作り弁当をもらった。

 ただのがらんとして物寂しい空間だけど、今の俺にとっては特別な場所だ。


「――急にごめんね」


 後ろ側の扉が開いて、透さんが顔を出す。


「透さん」

「隆一君……」


 透さんは少し迷った素振りを見せつつも、意を決したように口を開く。


「美希に会いに行きたいの」

「本当に?」

「……は、反対?」


 透さんの目が不安に揺れる。


「ううん、透さんがしたいなら。でもそれは俺に言わなくても……」

「あの……あのね、一緒に付いてきて欲しいの」

「俺に?」

「迷惑なことをお願いしてるのは分かるの。でも私……一人で行ったらきっと途中でまた逃げ出してしまいそうで……。だから、隆一君にお目付役としていてほしいの。いてくれるだけでいいから」

「分かった」

「ほ、本当?」


 俺があっさり了承するもんだから、透さんは逆に戸惑ったみたいだった。


「うぬぼれかもしれないけど、冬馬さんと会おうとしたのって、俺と話をしたからら?」

「……そう。隆一君がしてくれた話をずっと考えていたの。『剣道っていう繋がりはもうないのかもしれない。でも、それ以外のことでまだ透さんと冬馬さんは繋がってるんだよ。それってすごいことだと思う』って……。だから美希とちゃんと話したいって思えた。仲直りできるなんて都合のいいことは思ってないけど、それでもちゃんと話すべきだって……このままじゃ、絶対ダメだってことは分かってるから」

「分かった。お目付役としてがんばるよ」

「ありがとう」

「会いに行くのはいつにする?」

「いきなりで申し訳ないんだけど、今日の午後8時に駅前に来てくれる?」

「分かった」


 短い休みを終わらせるチャイムが鳴る。教室を出て行こうとすると、「待って」と呼びかけられた。


「何?」

「朝から私のことチラチラ見てたみたいだけど、隆一君も私に何か話したいことがあったんじゃない?」


 気付かれていたか。って、あれだけチラチラと見ていたら普通気付くか。恥ずかしい。


「あー、もうそれは大丈夫。解決したから」

「そう言われると気になるんだけど……」

「静ちゃんに頼まれたんだ」

「静に?」

「透さんが悩んでるみたいだから、何で悩んでるか聞き出して欲しいって」

「あ……。姉妹ともども迷惑かけてごめん」

「ぜんぜん問題ないから。あ、でもお願いがあるんだ」

「……何?」

「静ちゃんにちゃんとフォローしておいて。静ちゃん、すごく透さんのことを心配してたから」

「分かった」


 薄く笑った透さんは、すぐに真面目な表情で頷いてくれた。

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