第27話 いつもの日常

 透さんの自宅にお見舞いに行った翌日、登校すると、教室の出入り口に生徒が溜まって、教室を覗き込んでいた。

 咳払いをして道を譲ってもらう。

 透さんが登校していて、クラスの女子たちと笑顔で話していた。

 良かった。昨日言っていた通り、登校したんだ。


「安達、無事に登校したみたいで良かったな」


 和馬が言った。


「……いらん連中もいるみたいだけど」

「まあ、噂の本人が登校してきたんだからな」

「また馬鹿な噂が広がったりしてるのか?」

「学校は暇人の溜まり場だからな。馬鹿な噂は昨日と変わらず。他のクラスの連中が、部活やら何やらで楽しそうに話してるらしい」

「なんだよそれ」

「俺に怒るなよ。そのうち飽きるだろうさ。そんなことより見てくれ。新しい彼女」


 和馬がスマホに映った、女子との写真をみせてくる。

 可愛い。おまけにスタイルもいい。こんな逸材とどこで知り合うんだろうか。……出会い系か?

 同じ日本。同じ街で暮らしてるのに、この格差は一体なんなんだと、真剣に悩みたくなるくらい羨ましい……って、前の俺なら思ってただろう。

 でも今は違う。透さんを好きになってから、他の女子のことは正直、どうでもよくなっていた。


「またかよ」

「今度こそ、運命の相手だって確信してるぜっ」

「誰? うちの学校の子?」

「バイト先の他校の女子」

「……まずは一ヶ月続くかどうか見物だな」

「続くさ。決まってるだろ。運命の相手なんだから」

「そう言って、最短記録は三日だっけ? 健闘を祈る」

「お前もなっ」


 肘で、脇を軽く小突かれた。


「俺が、なんだよ……」

「べっつにー」


 和馬はニヤッと笑った。


「ったく」

「おい、いじけるなって。どこ行くんだよ」

「いじけてねーよ。トイレ」

「ついていくか」

「来んな」


 俺はわざと野次馬がたまっている扉に向かって突撃し、「漏れるから、どいてくれー」とこれみよがしに声をあげ、押しのけた。

 さんざん文句を言われたけど、知るか。

 そしてトイレを済ませる。


「――隆一君」

「!」


 いきなり話しかけられて過剰におどろいてしまう。


「と、透さん……」

「ご、ごめんね。こんなところでいきなり。でも教室だと言いにくくて」

「どうかしたの?」

「昨日は、来てくれてありがとう。改めてお礼を言いたくって。心配してもらって……嬉しかった」


 透さんは深々と頭を下げる。


「頭なんて下げないでよ。俺が勝手にやったことなんだし……。それより昨日のあの……」

「え?」

「お、押し倒すみたいな……」

「!」

 透さんは頬を赤らめ、少し目を伏せた。


「あ、あれは、事故だから」

「そうだよね。事故、うん……」

「隆一君は私を助けようとしてくれたんだから、ぜんぜん……」


 俺は空気を変えるように咳払いする。


「とにかく、何か困ったことがあったら相談にのるから、遠慮しないで言ってよ」

「ありがとう」


 透さんは口元をほころばせ、教室に戻っていく。

 やっぱり透さんには笑顔がよく似合うな。少しでも力になれたんだったら、良かった。

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