第19話 待ち合わせ

 透さんのことが気になる中、静ちゃんとの約束の日を迎える。

 正直、出かけたい気分ではなかったけど、静ちゃんの恋のためにも頑張らないと。

 待ち合わせ場所は駅前広場。

 さて、静ちゃんはどこだろう。

 静ちゃんの服装は白いワンピースに赤いバックを持っているらしい。

 見回すと、すぐに見つかった――でも、それは明らかに静ちゃんじゃない。


 モデルかと見紛うばかりのすらりとしたスタイルに、淡い色の髪を背中に流している。明らかに日常風景から浮いている。

 悪い意味で浮いてるんじゃなくって、周りの人たちとは一線を画すほどの綺麗さだ。まさか芸能人?

 その女性がこちらを何気なく見る。目が合った。

 その人は俺がよく知ってる人で……。


「透さん!?」

「隆一君……? ど、どうして……?」

「……えーっと、実は静ちゃんと待ち合わせをしてて……」

「静と? ここで?」

「買い物に付き合って欲しいって言われて……」

「本当に今日?」

「うん」

「この時間?」

「そう」


 どうしてここまで念入りに聞くんだろう。そんなに俺と静ちゃんが待ち合わせするのが不思議なことなのかな。

 まあ、姉としては気になるか。

 でも俺としては透さんがお洒落に気を遣って、誰と待ち合わせているのかのほうがめちゃくちゃ気になってしかたがない……。

 橘さんではないだろうし。


「……私も静と待ち合わせしてるの」

「えっ!?」

「ちょっと待って……」


 透さんはスマホを操作して、通話をかける。俺にも音声が聞こえるようにスピーカーにしてくれた。


『はあいっ! お姉ちゃん、どうしたのー?』


 静ちゃんの底抜けに明るい声が聞こえた。


「はあいじゃないわよ。静、今どこにいるの?」

『今? 友だちと買い物中だけど?』

「静、こんな大事な日に……っ!」

『お姉ちゃん、ごめんね。友だちとの約束を優先しちゃった。でも大丈夫だから。おにーさんと一緒に行けばいいんだからさ』

「あ、あんたね……!」

『怒らないでよ。――おにーさん、そこにいるー? 聞こえるー?』

「き、聞こえてる。静ちゃん、これ、どういうことなの!?」

『騙しちゃってごめん。おにーさん! お姉ちゃんのこと、お願いね! ばいばーいっ!』


 静ちゃんはさっさと通話を終えてしまう。


「ちょっと、静……! もう……」


 透さんがちらっと、俺を見る。


「隆一君、ごめん。うちの馬鹿な妹が……」

「透さんは、静ちゃんから何て聞いてたの?」

「……ちょっと買い物がしたいから先に出るって。で、ここで待ち合わせって言われて……ああもう……どうしよう……」


 透さんは絶望的な表情になる。


「もし良かったら、静ちゃんの代わりに付き合うけど?」

「えっ」

「え……?」

「透さん、今日を楽しみにしてたんじゃない?」

「……それは、そうなんだけど……」


 透さんは腕時計をしきりに気にしていた。

 映画にでも行くのかな?


「じゃ、じゃあ……お願いできる……?」

「どこに行くの?」

「……か、カフェ」

「カフェ?」


 透さんはこくりと小さく頷いた。


「じゃあ、行こう」

「う、うん」

「そう言えば透さん」

「何?」

「そのバック、結構大きいけど、何が入ってるの?」

「これは……ちょっと、ね」


 透さんは曖昧に笑って答えてくれなかった。

 俺たちは駅に向かって歩き出した。



 電車の中は休日ということもあって、なかなかの混み具合。

 平日と違って、会社員の代わりに家族連れやカップルの姿が目立っていた。

 俺たちは吊革に掴まり、電車の規則正しい揺れに身を任せる。

 電車の中でも透さんのモデル体型は際立っていて、部活帰りだろう学生服姿の女子たちがチラチラと見てくる。

 透さんはそれに気付いて、居心地が悪そうだった。


「ねえ、隆一君……」

「何?」

「私の格好……やっぱり、変?」


 やっぱり?


「ぜんぜん変じゃないよ。すごく似合ってる」

「でも、あの子たちがすごく見て来るんだけど」

「あれは絶対、透さんが綺麗だから見てるんだよ」

「……もう、か、からかわないで……っ」


 透さんはほんのりと頬を染め、唇を尖らせた。


「からかってない。すごく似合ってる。俺もそう思うし」

「……ほ、本当?」

「本当に」

「そ、そっか。隆一君がそう言ってくれるなら……」


 念押しすると、透さんはいくらか安心したのか、強張った表情が少し緩んだみたいだった。

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