第17話 静ちゃんからのお願い

 俺が自宅のリビングのソファーで横になりながらスマホをいじっていると、静ちゃんからメッセージが届く。


『おにーさん、今通話して大丈夫?』

『大丈夫』


 すぐに通話が入った。


「静ちゃん、どうしたの?」

『おにーさんっ♪』


 静ちゃんはかなり機嫌がいいみたいだ。


「何かいいことでもあった?」

『今からなのか、将来的なことなのかは分からないけどね!』

「?」


 話がまったく見えない。


『――お姉ちゃんの手作り弁当、美味しかった?』

「! 静ちゃん、どうしてそれを……」

『とーぜんだよ。お姉ちゃんと一緒に暮らしてるんだよ? それで、お姉ちゃんのお弁当、美味しかった?』

「うん。美味しかった」

『でしょ! お姉ちゃん、すっごく料理上手なんだから。だから、お嫁さんにするならお勧めだよ?』

「静ちゃん!?」

「どうしてそんなびっくりしてるの? おにーさん、お姉ちゃんのこと好きでしょ?」

『な、なに言って……』


 中学生の言葉に動揺して、声が少し上擦ってしまう。


『にひひひ。おにーさん、動揺しすぎっ! あー、でもおにーさんって、本当にお姉ちゃんのこと好きだったんだ。今は単にかまかけただけなのに』

「……し、静ちゃん……うう」

『好きなの? どうなの? はっきり言って?』

「…………」

『お姉ちゃんには内緒にしとくから。どうなの?』

「…………う、うん」

『あははは! やっぱり!』

『静ちゃん、このことは本当に内緒に……』

『もちろん! あたしを信用して! これでも口は固いんだから!』

「……そうであることを願ってる」

『でもいつからお姉ちゃんのことが好きなの? 前から? あたしと一緒にナンパ男たちと逃げた時には好きだった?』


 中学生といえどもやっぱり女子。恋バナは大好物みたいだ。

 電話ごしにも、静ちゃんが目を輝かしている姿が容易に想像できる。


「あの時は透さんとはほとんど話したことはなかったんだ。ちゃんと話すようになったのは、静ちゃんのことがあってから、かな」

『じゃあ、あたしのお陰だ!』

「……まあ、そうかも」

『えへへ。おにーさん、あたしに感謝してよねっ!』

「うん、静ちゃんにはすごく感謝してる」


 静ちゃんとの出会いがなかったら、透さんとこんなに親しくなることもなかった。

 もちろん好きになることだって……。


『よろしいっ。ふじみ屋のあんみつでよろしくっ♪』

「りょーかい」


 静ちゃんが茶目っ気のある言い方で、笑った。


『……って、用事はそれじゃないんだった』

「ん?」

『話の本題を忘れちゃうところだった。おにーさん、今週の土曜日って空いてる?』

「空いてるけど……どうして?」

『実は買い物に付き合って欲しいの。どう?』

「俺はいいけど、透さんは予定があるの?」

『お姉ちゃんは駄目』

「駄目……? どうして」

『今から言うこと、お姉ちゃんにはぜったい、ぜーったい、秘密にしててよ?』

「わ、分かった。大丈夫」

『えへへ。実はね、好きな人がいるんだけど、その子の誕生日にプレゼントを贈りたいの。だから同じ男であるおにーさんの意見を聞きたいなって思って。どう?』

「そういうことなら喜んで協力するよ」

『やった! おにーさん、大好きーっ! 頼りにしてるからっ! あ、詳しい予定はまたあとでメッセージで送るから』

「分かった」


 通話を終えた。

 静ちゃんに好きな人か。

 好きな人の誕生日にプレゼントだなんて、静ちゃんも女の子なんだな。

 透さんと一緒にいるとどうしても子どもっぽく感じてしまうけど、中学三年だ。好きな人だってできるだろう。

 静ちゃんのお陰で透さんのことを知ることが出来た。

 恩返しに、プレゼント選びはしっかり手伝おう。

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