第48話:急転の連続

 所変わってアメリカ合衆国首都ワシントンD.Cホワイトハウス内にてK国系米国人大統領である『ウイリアム・キム』は頭を抱えていて執務室内にいる閣僚たちも呆然というか信じられない様相で突っ立っていた。


「第七艦隊が……この地球上から消滅……。ああ、何たることだ! これではK国奪還は元よりチョッパリを叩き潰すことができなくなった!」


 大統領の言葉を聞いた閣僚たちは第七艦隊が壊滅したのはショックだったがキム大統領の本音を知ったのが収穫であった。


「やはり、閣下はこの米国第一ではなくK国を優先していたのですね? そんな大統領はこの国に必要ありません! 直ぐに退陣してください」


 この副大統領の軽蔑と憐みの表情をした言葉にキム大統領は何を狂ったことを言うのだとぶちぎれたが直ぐに執務室のドアが開いて国家憲兵が入ってきて無理やり猿轡を噛ませて大きな棺桶みたいな箱に入れて出ていく。


 大統領警護官も何もせずにじっと見送っていただけである。


「ふう、やっと追い出すことに成功したな! 黄色い人種が大統領なんて虫唾が走る!」


「しかし……国民にはどのように発表するのだ?」


「今朝、執務室にて心筋梗塞により急死したと発表する予定です。今頃は電気ショックで心臓が停止した所でしょう」


「……これよりこの私こと副大統領が政務を取るつもりだが議会には根を回しているのかな?」


「ええ、勿論です! 議会の9割がキムを毛嫌いしていましたから」


「しかし……第七艦隊が消滅したのは痛いな? 暫くは動けないか。しかし……あの伊400とかいう潜水艦は厄介だな。対処のしようがないがどうすればいい?」


 新たに第49代大統領に就任した『セオドル・ルーズベルト二世』が質問するとそれに答える海軍長官『ノックス』大将が全世界中の米軍を本国に退却して防衛ラインをグアム・サイパンまで後退させてはいかがかと言う。


「勿論、日本からも全軍を引き上げるのです。厚木も三沢も全て日本に返還するのです」


「……ふむ、しかし日本政府から貰っている思いやり予算が貰えないのは残念だが?」


「今の日本はほんの二年前とは違います。あの笠間総理が世に出た時から全てが変わり始めたのです。それにあの真崎という軍人も相当、手厳しいと情報機関からも報告が上がっています」


「……よし分かった! 別に日本と争う気はない。この騒動の詫びとして在日米軍の土地全てを返還すると伝えてほしい。勿論、沖縄をも含む」


 セオドル大統領の命令に皆が頷いた時、補佐官が駆け足で入ってくると笑みを浮かべながら新大統領に報告する。


「例の実験が大成功して人体にも全く影響が出ないことです!」


「そうか! 第七艦隊喪失は痛いが例の技術が気軽に実施出来ればお釣りがくるな」


「閣下、真フィラレルディア実験ですか?」


 ノックス大将がまさかという表情をしながら大統領に質問すると彼は頷いてそれと共に、戦術高エネルギーレーザー(Tactical High-Energy Laser 略して”THEL“)の改良版が実戦に投入できるレベルになったとの事を言う。


「あの白鯨の荷電粒子砲とは月とスッポンレベルで威力は違うが駆逐艦程度の大きさなら一瞬で破壊できるし音速で飛んでくるミサイル等も全て100%迎撃できるとの事」


「20世紀で研究されたスターウォーズ計画が正に実現したというわけですか」


「その通りだな、しかしあのフィラレルディア実験が実用出来る事が最大の知らせだな」


 それから数十分間、閣僚とこれからの話をした後、皆が出ていき最終的に一人になった時、大統領専用椅子に座るとホットラインの受話器を取り上げてあるところに繫ぐ。


 数秒後、目的の人物につながると彼はにこやかに挨拶する。


「笠間総理、お久しぶりです。第49代大統領セオドルです。流石は総理の懐刀である真崎大将の謀略が凄いですね? お陰で大統領の椅子に座る事が出来ました」


「おめでとうございます、それで? お約束の件は守っていただけますね?」


「ええ、軍事面に関しては我が国の新たな方針として引き籠り政策をとります。総理の宿願である大東亜共栄圏の強固な成功を祈っています」


 お互い朗らかな話をもって終話する。

 受話器を置いたセオドルは今この瞬間から笠間総理との駆け引きが始まるのである。


♦♦


 一方、大統領と話を終えた笠間総理は他の人には絶対に見せない弱気な表情をしながら溜息をついていた。


「もうかれこれ11時間が経過したけど……進展の報告はまだなのかしら?」


 笠間総理の心配とはロシア国の最新鋭潜水艦に撃破された“うりゅう”の行方についてであった。


 総理は立ち上がると執務室内を動き回るが落ち着くことができなかった。

 その時、ドアが開いて真崎大将が入室してきて敬礼する。


「総理、悪い報告と良い報告がありますがどちらからお聞きになりますか? 勿論、潜水艦“うりゅう”についてですが?」


「悪い報告から聞くわ」


「了解です、潜水艦“うりゅう”の沈没位置が判明したので現在、潜水艦救難艦“ひご”が緊急出港して4時間後に到達予定ですが海底地形の調査では船体の前半分が崖に乗っている状態で何かの拍子でそのまま水深4千メートルの海底に行く恐れがあるとの事です。それと船内の空気が残り三時間弱との事ですのでギリギリです」


「……可及速やかに現場に到着するように命令してください! では良い報告をお願いします」


「はい、潜水艦“うりゅう”艦長を初めとして乗員全員が奇跡的に無事だとの事です」


 その報告を聞いて笠間総理は安堵の息を吐いて椅子に座る。


「真崎大将、御苦労様です。後は彼の運命に委ねることにしましょう」

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