第47話:別世界との邂逅

 突如、出現した巡洋駆逐艦“雪風”に伊400の乗員達はビックリしてゾロゾロと艦内からハッチを経て出てきて眺める。


 日下と富嶽はお互いの甲板上で敬礼する。

 富嶽の横にいる副官であろう青年も笑みを浮かべながら敬礼すると日下の横にいる橋本も敬礼する。


「富嶽さん、貴方の事は朝霧翁様から聞いていますよ? 何でも歪められた歴史を元に戻す為の旅に出られたと?」


「ええ、そうです。この世界とは違う並行世界の一つで色々と皆で考えながら進めています。日下艦長、今からそちらに行ってもかまいませんか? 朝霧翁様から預かった物の目録とそれを伊400に運搬する為に」


「どうぞ! 時間があれば伊400の艦内にも案内出来ますが……時間が限られていると思いますが?」


「ええ、出来ればゆっくりとお話ししたい事が沢山、ありますがこの世界に留まる事が出来るのは二・三時間ぐらいかと」


 富嶽はそういうと副官らしき青年とともにラッタルを降りて伊400の甲板に飛び乗る。


 “雪風”では乗員達が感嘆な声をあげながら伊400をデジカメで撮っている。


 勿論、伊400でも同じことを乗員達がしている。

 日下は富嶽と正対すると手紙を受け取る。

 その内容は先日に時空無線と話した内容と一緒だった。


「……ほう? 瞬間物質転送機を朝霧工廠が開発してその正規品を伊400に渡してもらえるとは……。丁度、これと同じものを我が艦の技術班が開発しているのだが性能表を見ると朝霧工廠が造ったものがピカイチだな」


 富嶽の説明によるとバラバラにしたパーツがあるのでそれを組み立てて核融合炉バイパスと繋げれば作動するという事で早速、吉田技術長の立ち合いでパーツが入ったコンテナを運び込む作業に移る。


 日下は、富嶽に朝倉翁から聞いたのだが元は同じ世界軸にいた事を話すと富嶽も頷く。


「ええ、私は昭和45年6月生まれでして朝霧翁様と出会い、この“雪風”に乗船したのが2023年6月なのです。53歳の誕生日に朝霧翁様のいる世界に呼ばれたみたいですね?」


「ほう……すると富嶽さんは53歳ですか。失礼だが20代に見えますがこれも翁様が?」


「ええ、年齢は変わりませんが体力・気力等は20代です。そういえば日下艦長は確か平成11年にお亡くなりになられたというか突然、神隠しのように消えて自死したのではないかとWIKIに記されていましたけどそれからの日本の事は分からないのですね?」


「ええ、正に寿命が尽きようとした瞬間、別の並行世界の日本に転移したのです」


 日下はもう何百年前になるか前の事を懐かしそうに思い出しながらあの日本本土決戦の事を思い出す。


「富嶽さん、平成11年以降の私たちの世界はどうなったのですか? 誇りある美しい日本になりましたか?」


 日下の質問に富嶽は険しい表情になると共に溜息をつくと悲しそうに説明すると日下は絶句する。


「……あの大東亜戦争で散っていった英霊達は靖国で泣いているでしょうね? 美しい国どころか外国勢力に我が祖国の土地が侵されているとは……。それに東北大震災や世界的ウイルスに元首相の暗殺や現職の総理が襲われる世界ですか……」


「日下艦長、私は思うのですが私達がこうして別世界の日本を救う事をしているならば別の並行世界の日本から私達がいた世界に別の存在が来るのでは?」


 富嶽の言葉に日下ははっとすると彼の目を見ながら頷く。

 富嶽の横にいる副官も頷く。


「富嶽さん、良い事を聞かせてくれたね? 確かにそうだ! きっとそうなる。それを期待して今時点でいる各々の世界の日本を救うことを考えることだな」


 日下の言葉に富嶽も笑みを浮かべながら頷くと橋本先任将校がやってきて荷物の運搬作業が終了しましたと言ってくると日下は頷いて先に皆を艦内に戻って出発準備に入ってくれと言うと橋本も頷いて艦内に入っていく。


「そういえば今しがた気付いたのだが階級章がついていないのだが何か理由が?」


「ええ、実は私は自衛隊にいたのではなく元々は民間会社にいたのです。この“雪風”の乗員は170名ですが100名は普通の民間人です。勿論、指揮系統は厳正となっていて私は艦長としての権限を得ています」


「……そうですか、しかし現役の海軍軍人として忠告しますがいずれはきちんとした階級社会を形成したほうがいいかと。そしてそれを身に染みるように徹底したほうがいいと思いますよ? 何かのきっかけで崩れることもあります」


「それは……『小沢治三郎』大将もおっしゃっていましたね。数週間後には正式に日本海軍艦艇として登録されると聞いています。勿論、人事権やこの“雪風”の運営は全て私に任すと。恐らくその時点で新たな階級を授与されるかと?」


「ほう……小沢大将ですか。そういえば富嶽艦長はどの世界軸に転移したのですか?」


「私は1944年マリアナ沖海戦半年前に転移して現在、反攻作戦としてハワイ真珠湾を壊滅させる為の準備段階です。ちなみに現在の時間軸は1945年1月です」


「すると……サイパン・グアム島は陥落しないでスプルアーンスやハルゼーの艦隊を撃破したのですね?」


「ええ、“大和”“武蔵”“長門”“榛名”“伊勢”“日向”率いる戦艦部隊の砲撃は圧巻でしたね。勿論、栗林中将や南雲中将も無事でサイパン・グアムは堅固な要塞化しつつあります。ちなみにマリアナ沖海戦ですが潜水艦の脅威が無くなり猛訓練のお陰で空母10隻を撃沈しましたよ。勿論、この“雪風”も参加しましたが」


「……そうですか、では装甲空母“大鳳”も無事ですか?」


「勿論、無事で小沢艦隊の旗艦として活躍中です。欠陥部分もきちんと修繕していますので本来の性能を発揮しています」


「政治体制は東条英機政権ですか?」


「そうです、東条閣下直々に手を握りながらお礼を言われましたよ。聞いていた人物像と違うので戸惑いましたが」


 日下は富嶽の言葉を聞きながらこの調子なら大丈夫と安心するがふと何かを思い出したように富嶽に言う。


「今は退役しているだろうけど機会があれば『石原莞爾』閣下にお会いしてみたらいい」


 富嶽は頷きながら了解しましたと伝えると“雪風”甲板から乗員が、間もなく時空の裂け目が開く頃ですのでお戻りをと叫んでくる。


 富嶽はすぐに戻ると大声で言うと日下のほうを向いてそれでは戻りますというと日下も頷いてお互いに固い握手をする。


「いつか共に時空移動の旅ができる事を期待して別れの言葉は言わないでおこうと思う。又、会おう!」


「ええ、それでは暫しの間ですが行って来ます」


 富嶽と副官がラッタルを昇って“雪風”の甲板に戻ると再び時空の裂け目が出現して“雪風”を包み込んでいく。


 お互い敬礼すると同時に“雪風”は時空の裂け目に入り、元の何事もない海面が日下の前に広がっていた。


「……気持ちが良い青年だな、再会の時まで壮健なれ……かな」

 そして数分後、伊400はゆっくりと潜航していきその船体を海中に隠す。


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