第46話:苦い結末、そして?

 第七艦隊旗艦“リンカーン”では映像で伊400の最後を見届ける為に全員がモニターを見ていたが伊400の周辺で41センチ弾を次々と迎撃していく様子に皆が唖然としていた。


 だが、数発が伊400に命中したのを見ると至る所で歓声が上がりロボスも深く頷くが凄まじい水柱等で中々、確認が取れなかったが海面が落ち着き始めて来るのを確認したロボスはあまりにもの風景に持っていたコップを落としてしまうが他の者達も口を開けながら呆然としていた。


 伊400の船体は傷一つもなく、そのまま何事もなかったように航行しているのを確認したロボス達はがっくりと膝を落として椅子に座りこむ。


「ば、馬鹿な……!? 傷一つ付いていない!?」


 誰一人、口を開くことができなかったが突如、凄まじい爆発音が聞こえたと同時にその方向へ顔を向けると戦艦二隻が火災と黒煙を噴きながら船体が真っ二つに折れて断末魔のごとく沈んでいくのが見れる。


「……我々は何と戦っている? 奴は……正にモビーディック……」


 ロボスの呟きが終わると同時に乗員の一人が前方90海里にて白鯨を補足したとの連絡を受けるとロボスは咄嗟に自分でも信じられない命令を出す。


「総員退艦だ……。急いで艦から退去するのだ! あの白鯨の艦長は間もなく荷電粒子砲を放つ筈……だ、急げ!! ちまちまとしないで飛び込んでこの艦から出来るだけ離れろ!」


 ロボスの命令に艦内は騒然となって甲板上にいた乗員たちはそのまま飛び込んだりして次々と脱出準備に入る。


 この行為は後ろを航行している艦も同じで荷電粒子砲の射程範囲内の乗員たちは次々と退艦というかそのまま海に飛び込んで出来るだけ離れていこうとする。

「司令官も早く退艦を!」


 艦長の言葉にロボスは首を横に振りながらその要請を拒否すると共にこの艦とともにあの荷電粒子砲を受け止めるという。


 艦長はロボスの表情を見てどうあっても退艦する気がないことを感じると敬礼をして何も言わず艦橋を出て行った。


「……さて、どれだけの乗員が脱出できるのか? あの艦長は待ってはくれないだろうな……」


♦♦


 正にその時、伊400司令塔では建御雷神の矛の発射準備が為されていてターゲットスコープが“リンカーン”を中心点としてロックオンしていたのである。


「艦長、建御雷神の矛の射線上には空母2隻・巡洋艦1隻・駆逐艦2隻がいます。映像ですが次々と乗員達が海に飛び込んで行きます」


「……そうか、だが遅い、遅すぎたな。慈悲は無しだ! 発射90秒前」


「了解! セーフティ解除、加速器内限界まで増幅中! 全て順調です」


 時間が刻々と迫っていくと共に日下は発射トリガーを握りカウント0になるのを待つが永遠の長さを感じる。


 そしてカウントが0となった瞬間、トリガーを引くと加速器内で逃げ場を求めている圧縮増幅された粒子が一気に吐き出される。


 建御雷神の矛が発射されてその強力なエネルギーが“リンカーン”を始めとする艦船を貫き強烈な青白い光を放つと共に光は艦船の外殻を貫通し、内部へと侵入する。


 凄まじい光に包み込まれながらロボスは叫ぶ。

「星条旗に栄光あれ!!!」


荷電粒子は、高速で船体内部を進みながら、周囲の物質と衝突して、その衝撃とエネルギーによって、船内部の金属は熱を帯びて溶け始めていく。


まるで灼熱の溶岩のように、金属は赤く輝くと同時に、艦船内部は激しい爆発音と共に揺れ動き、エネルギーの波が船内を駆け巡り、装置や構造物は瞬く間に破壊されると共に凄まじい爆発を引き起こしていく。


巨大な爆発が連続的に発生し、船体が激しく揺れる中、部分的に崩壊していくとともに熔解していく。


船体は破片と化し、乗員を含む全てが原子と化してつい先程まで存在したはずの艦船は完全に消滅してその跡には、静かな海面があるだけであった。


 建御雷神の矛の直撃を免れた他の艦船は陣形を崩して思いのまま散っていくが伊400から放たれた魚雷により次々と船底から真っ二つにされて轟沈していく。


 ミサイル巡洋艦“フランクリン”一隻だけが残ると日下は乗員救出用として見逃すことを決定する。


 既に建御雷神の矛は船内に回収されて射出機がセットされている。


「艦長、これで太平洋方面の米国艦隊は壊滅ですね? 第3艦隊や第5艦隊を太平洋に持ってくるとしても数か月はかかります」


 橋本の言葉に日下はうんと頷くと“リンカーン”が消えた海面を見ながら敬礼する。

 その様子を見た他の乗員達も敬礼をして黙禱する。


「さて、当艦はこのまま反転して全速力で東シナ海に向けて急行する! 日本艦隊の援護に向かう」


 日下の言葉に全区画から了解との報告が入り伊400は反転して潜航開始しようとした時に時空レーダーが反応したことを日下に報告してくる。


 この時空レーダーは現在いる世界から別次元の並行世界からジャンプしてくる物体をキャッチする物で滅多に作動しない代物である。


「何!? 出現時間は?」

「後、10秒後です!」


 日下達は別次元から出現する海域を凝視する。

 そして10秒後キッチリに空間が乱れると共に裂け目が出現してそこから一隻の艦船が出現する。


「……あれは……旧日本海軍陽炎型駆逐艦だ! いや、形状は一緒だが重巡並みの大きさだぞ? 一万トンはある」


 日下が呟くとその陽炎型艦船は伊400の真横に見事な操艦で停止すると共に艦橋から二人の人物が出てくる。


「初めまして、伊400艦長『日下敏夫』少将ですね? 私は巡洋駆逐艦“雪風”艦長の『富嶽武雄』と言います。伝説の伊400と邂逅出来て光栄です」

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