第45話:過去の幻想? それとも現実?

「艦長? 日下艦長?」


 誰かの声にハッと気付いた日下はどうした? と言葉を発するが目の前に映る景色に??? 状態になった。


「艦長、いかがしますか? このままウルシーへ行くのか? 降伏するのか? どちらを考えているのですか?」


 伊400艦長『日下敏夫』は数秒前の司令塔の景色と今しがた見ている司令塔の風景が全く違うことに動転していた。


「ウルシー……? 第七艦隊の間違いではないか?」


「……艦長、お疲れですか? 無理もありませんが伊401の有泉大佐から発行信号が送られてきましたが読みましょうか?」


 日下の目の前にいる人物を思い出すと共に今しがた目の前で起こっていることは未だ時の漂流者となる前、最初にいた世界で昭和20年8月15日の出来事だと思い出す。


「いや、大丈夫だ! すまない、少々頭が混乱してしまったが日本はポツダム宣言を受諾して降伏したが我々はこのままウルシー攻撃を続行するか日本に引き返すかどうかの意見だったな? 南部艦長は玉音放送の内容に激怒してデマだと怒鳴っているのだな?」


「は、はい! よくご存じで。有泉司令も同じでこのままウルシーに針路を向けていくと言っています」


 日下はこれは夢か幻かそれとも何かの拍子に過去に戻ってしまったかは分からないが何かの理由でここにいると確信する。


「間もなく連合艦隊司令部から小沢長官の名で即時戦闘行為を中止すべきという命令が来る筈だが……」


 日下の言葉に他の乗員たちが吃驚して艦長の顔を見るが通信士が電文の紙を手に走りこんできて第6艦隊司令官の醍醐中将から小沢中将の名で呉に帰投すべしとの事を言ってくる。


 日下はもうなん百年前になるか分からないがあの時、経験した思い出が鮮明に思い出されたのである。


 日下はかつて経験したことをもう一度実施するために士官全員を士官室に集めて彼らに自分の意見をいう事を言う。


 暫くして乗員の一人が士官全員が集合していますとの報告を受けた日下は頷いて司令塔から出ていく。


 潜水艦の独特な匂いが充満している中、日下は不思議と懐かしさを感じる。


 そして士官室に入った日下に他の士官が敬礼して迎える。

 早速、航海長『西島和夫』大尉が強硬な意見を吐く。


「どの面下げておめおめと内地へに帰れるか! 予定通り晴嵐を出撃するとともにウルシーへ殴り込みにいくだけだ! それがダメならこのまま自沈するべきだ!」


 他の士官も遠慮しがちで意見を言うがこのまま続行と降伏やむなしの意見が半々に分かれた。


 日下は経験していたこと故、結果は分かっていて再び同じことを言う。


「連合艦隊司令部と第6艦隊司令官の意見を採用してこのまま呉に帰投する! 続いて艦内放送で日本が降伏したことを伝える」


 日下の言葉に他の士官達が頷く。

 西島航海長もしぶしぶながらも頷く。

 日下艦長の人柄ゆえ、彼の意見に従ったのである。


 数分後、日下は艦内放送で日本の敗戦を伝えると共に呉に帰投することを伝えると共に伊401にもそれを伝えることにする。


 伊401からも了承したとの事で日本へ帰投するために反転する。


 その時、日下は米軍に捕獲される寸前、有泉大佐が自決することを思い出すと共にそれを阻止することが目的のため、過去の世界に戻ってきたのだと確信する。


 伊400と401は海面に浮上してそのまま洋上航行で日本へ向かっていた。

 日下は発行信号で有泉大佐と話をしたいと伝えて暫くして有泉大佐がハッチから出てくる。


 この時、二隻は並行に並んで航行していて十分、話しできる距離であった。


「有泉大佐、間違っても馬鹿な事は考えないで下さい! 日本は敗戦という最悪な事から再出発ですが必ず立ち直ることを私は確信しています! どうかお命を大切にして戦後の若者達を引っ張っていく存在として生きてください。死んでしまえばもうそれまでです、生きて荒廃した日本を再び復興させる一員として生きてください」


 それから日下と有泉はお互い、色々と会話してやっと有泉大佐は日下の言葉を受け入れて自決を思い留める事に成功する。


「不思議だな? 日下中佐、貴官はこれからの未来の出来事を知っているかのような感じだが?」


 日下は笑みを浮かべながらそう簡単に日本は滅びないという事を信じているだけですと言うと有泉も頷く。


「そうと決まれば米軍に見つかって拿捕されるのも時間の問題だな? 艦内の清掃でもするかな? ヤンキー共に馬鹿にされたくないからな?」


 二人は笑うとお互い敬礼をして司令塔に帰っていく。

 日下が司令塔に入ると乗員たちが笑みを浮かべながら迎える。


「艦長、降伏は受け入れますが一度も酸素魚雷を発射することもなく終わるのは寂しい限りです」


 水雷科の『籔島信二』少尉が残念そうに言うが日下は黙って頷くが心の中では突っ込みを入れていた。


「(別世界の貴官は生まれ変わった伊400でバンバンと魚雷を打ちまくって米艦隊を撃沈しまくるのだがな?)」


 そう、生まれ変わった伊400の魚雷管制室の一員として。

 暫くして日下は再び艦橋ハッチから艦橋甲板に出ると伊400を見つめる。


「……恐らくこの世界の伊400は米軍に拿捕されてハワイ沖で砲撃の的となって沈んでいくのだろうが……違う世界では生まれ変わった伊400で数々の並行世界で暴れまわる存在になるのだが……」


 日下がそう思ったとき、不意に誰かに肩を揺すられて自分の名を呼ばれた気がすると同時にはっとなって目の前を見ると橋本先任将校と吉田技術長が心配そうに日下を見ていたのである。


「艦長? いかがしましたか? お疲れのようですが緊急電です! 戦艦二隻のレールガンが作動したとの事です」


 日下は再び頭が混乱したが直ぐに立ち直って命令を出す。


「CICに発砲と同時に対空迎撃ドローンミサイルを発射するように伝えると共に総員、衝撃に備えろ! プラズマシールド作動!」


 日下の命令から数十秒後、CICから大声で連絡が入る。


「敵戦艦、発砲しました! 命中まで5秒!」

「対空ドローン発射!!」


 甲板に取り付けられているドローンランチャーから次々と撃ち放たれていく。


 その瞬間、41センチ砲弾が次々と迎撃されて直近で爆発するが三発が伊400の後部甲板と艦橋に直撃したのである。


 凄まじい振動が艦を襲って日下たちは何かに捕まっていなかったら吹き飛ばされてしまう所であった。


「艦の損傷を報告しろ!」

「プラズマシールドのお陰で装甲ダメージ0.00000001%です!」

「機関室、異常なし!」

「荷電粒子砲異状なし!」


 何の損傷もないことを確認した日下は笑みを浮かべて頷くと共に戦艦二隻に対して魚雷4発をお見舞いしろと命令する。


 数十秒後、4門の魚雷発射口から報復として超高速魚雷が放たれたので

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